書庫 守りたいモノ(軋双) 守る これ程自分に似つかわしくない言葉はないだろうと思った 《守りたいモノ》 家族ができる前からも、 家族ができた後も、 この力で他人を殺すことはあればこそ、他人を守ることなんてできるとも、しようとも思わなかった。 いくら“零崎”であっても、自分はあの自殺志願とは違うし、 彼のように、家族だからって全てを受け入れることもできはしない。 自分は、 やはり、自殺志願の言うところの“不合格”なのだろうと思う。 「アス〜…」 何やら情けない声がして、樹に寄りかかって座っていた軋識が顔を上げると、そこにはかの自殺志願が居た。 「…?」 だが、どうも様子がおかしい。 細長い針金細工のような体躯は、疲れきったように頼りなく揺れている。 彼は軋識の方へふらふらと歩いてくると、どかりと隣に座った。 「はぁ…」 「どうしたっちゃ?」 「ん〜人識がねぇ…」 最近の彼は、先日中学を卒業したばかりの“弟”につきっきりである。 “弟”―零崎人識は、中学の頃はサボりがちではあるがそれでも何とか学校に通っていた。 だが、この春中学を卒業してしまうと、兄・双識の目を盗んでふらりと家を抜け出しては、そのまま帰ってこないことが既に何回もあった。 双識が必死に探して連れ帰るのだが、どこにいたのかと思えば長崎でカステラを食べていたとか北海道でメロンクッキーを食べていたとか、なんとも気の抜けるような話である。 そんな理由で、流石のブラコン変態男・双識にも最近疲れが見え始めている。 「いいかげん諦めたらどうだっちゃ?」 「そうはいかないよ!人識はまだ15なんだよ?!」 「俺はもうその頃には一人立ちしてた気がするっちゃ」 「…俺だってそうなんだけどね…。だけど人識は…」 双識は、そこで言葉をいったん切ると小さくため息をつき、困ったような顔を見せた。 「…何か不安なんだよね。ただ“未熟”って言葉では片づけられないし…むしろスキルはもう一人前所か百人前ぐらいだと思う。…でも」 双識の言いたい所は何となく分かる、気がする。 自分も、あの“弟”のことは分からない。 隣に座る、このマインドレンデルもよく分からないが、あの“弟”はそれ以上だ。マインドレンデルを理解不能とするなら、アレは認識不能だ。 そこまで考えて、双識の言葉の続きがいつまでたっても聞こえてこないことに気づき、ふと隣を見遣る。 「…レン?」 「…ぐー」 零崎一賊長男、『二十人目の地獄』自殺志願・零崎双識は、 寝ていた。 「マジっちゃか…」 軋識は肩を落として嘆息する。 「おーい。レンー?」 余程疲れていたのだろう。数回揺すりながら呼びかけていたのだが、起きる気配は全く無い。 それ所か、 「っ?!」 樹に寄りかかって寝ていた双識は、先ほど揺すったことによってずるりと、軋識の膝に倒れ込んできた。 「勘弁してくれっちゃ…」 本日二度目の嘆息。 その元凶である男を睨みつけてみるが、それでもこの殺人鬼とは到底思えない暢気な寝顔を見ていると、起こす気にもなれずそのまま寝かせておく。 「……」 手持ち無沙汰だったので何となく、双識の長い黒髪を触ってみる。きちんと手入れしているのか、指で梳くとさらさらと流れた。 長い睫にくっきりとした目鼻立ち。 綺麗な顔をしている、と素直に思う。少なくともこの無防備な寝顔を見て殺人鬼とは誰も思うまい。 「つか殺人鬼の癖にこんな無防備に人前で寝るなっちゃ…」 でもきっと、こうも簡単に寝顔を晒すのは、多分軋識が“家族”だから。 彼が“家族”に絶対の信頼を置いているからなのだろうと思う。 馬鹿で、 阿呆で、 お人好しで、 変態な男だけれど、 哀しい程に愛おしく感じてしまった 家族ができる前からも、 家族ができた後も、 この力で他人を殺すことはあればこそ、他人を守ることなんてできるとも、しようとも思わなかった。 でも、 でも、 自分如きに信頼を寄せる、この愚かで愛おしい寝顔だけは守りたいと、初めてそう思った。 「…人識の言葉を借りれば…“傑作”だっちゃね…」 軋識は小さな声で呟いて、そっと双識の眼鏡を外してやった。 end... ◇◆後書き◆◇ アスレンになりきれてないアスレン第二弾ーいえー(笑)うぅむ…書いてる自分は楽しいんですがね…アスレン万歳ーッ!!! 軋識さん、ヤキモチ妬かせてみようかなとも思いましたが上手く書ける自信がないのと、大将が妬いてる姿を想像できなかったので断念。またそれは別の話で書いてみようと思いますι 大将はきっと双識さんのことを大切に大切にしてると思うのですよ〜vV大将は純情だと思ふ。(笑) [前へ][次へ] |