奥様は×××
3
神社周辺の木々に括り付けられたお祭りの提灯には既に灯りがともり、良い匂いのする屋台がずらーッと並んでいた。
それにしても、人がすごい。地元のお祭りだからそんなに人も居ないだろうと思っていたが、全くの予想外だ。
少し先を見ても人の頭しか目に入らない。
こんだけ人が居たら小さい梓鶴なんて直ぐ迷子になっちゃう。
「梓鶴、大丈夫?手ぇ繋ごっか?…ってあれ?」
冗談半分本気半分で隣を歩く梓鶴に提案。でも隣を見たら肝心の梓鶴がいない。さっきまで確かに居たのに!!
「梓鶴!!梓鶴ーっ!?」
何処だ??
ざっと周りを見渡したとき、後方で色白の細い腕が上がっているのが見えた。不自然に空に伸びた手。
よく見たら人の波に飲まれ、あぷあぷしてる梓鶴の姿でした。
「か…ずやぁ…」
人の波を掻き分けてまさに溺れかけている梓鶴の腕をなんとか掴んで森の小道に非難した。
お祭りの喧騒と灯りが少し遠い。
「はぁ、はぁ…ッ、まじ死ぬかと思った」
「こんなに人が居るとは思わなかったね」
ふと顔を上げて空を見た。俺たちのいる場所は木々が少なく、ぽっかりと明いたように空が見える。丁度お月様もはっきり見える位置だ。
ざぁっと吹いた大きな風。月明かりの夜空にピンクの花びらが舞った。
「見て、梓鶴」
思わず隣の梓鶴に声を掛ける。
あまりの美しさに梓鶴からため息の様に声が漏れた。
「すげ…」
桜の舞う夜空に目を奪われている梓鶴。背が小さいから俺からはその視線が上目遣いに見えて仕方ない。
感動に頬をうっすら染めてきらきらしている瞳が愛らしくてたまらないよ。
「ねぇ」
「あ?」
「その目は花粉症?それとも…」
誘ってるの?
耳元で囁いた俺の声に梓鶴の体はぴくんと反応する。
あー、スイッチ入っちゃった。俺の。
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