奥様は×××
3
「はい!これ私たちからの義理チョコです」
「わぁ、ありがとう」
やたら義理という言葉を強調して言った女の子社員。
後輩社員の柴田は聞こえなかったのか頬を少し赤く染め、それを嬉しそうに受け取った。
そういや梓鶴さんの調理実習ですっかり忘れてたけど今日はバレンタインだ。
俺は後輩社員の隣で手を差し出して貰える順番を待つ。
今年は何かなぁ?甘いもの好きなんだよねぇ。
しかし、女の子は俺の前を素通り。
「…あれ?俺には」
「三上さにはありませんよ」
「えー、何で何で?」
「何言ってるんスか。先輩は新婚でしょ?」
柴田はそういうとこれ見よがしに貰ったチョコをひょいと口に入れた。
えー。そうですけど。もらってないんですー。流石に0個は無いだろと思ってたけど、会社でも貰えないとなると今年は本当に1個もナシ…?
そんなの寂しすぎる…。
「仕方ないですね、奥さんには内緒ですよ?」
しゅんとしている俺に、女の子は包みに入ったチョコを1つくれた。
わぁい。ちろるちょこだぁ。しかもきなこもちー。
泣いてもイイカナァ?
「ただいまぁ」
相変わらずの時間に帰宅した俺。
そういや、もうピンポンはしないことにした。
だって、近所迷惑だしー。別に、梓鶴さんのどちら様ですか?が聞けないからとかじゃないしー。別に拗ねてないしー。
…シーン。
え?お出迎えもナシ?それだけは今まで欠かすことなくあったのに…!!
つーか、梓鶴さん…居ない…?
なんの音もないんですけど。
何処も電気ついてないみたいだし。
寂しく靴を脱ぎ、廊下の電気をつける。
そして俺は固まった。
………なんじゃこりゃ!!!
なんと目の前の廊下が泥だらけで水浸しだったのだ。
え、汚い。汚いよ、コレ。
どったの??
床を汚す泥をよく見ると、靴の跡のように見える。
も、もしや泥棒???
まじかよ…!!!
…はっ!!
梓鶴!!!!!
俺はすかさず駆け出してリビングのドアを開けた。
そこも電気をつけると、泥だらけの水浸し。
真っ白だったラグがぐちょぐちょになっていた。
「梓鶴!!梓鶴!?!?」
声を出して呼ぶが、なんの返事も無い。
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