奥様は×××
5
2人を見送ろうと自分も席を立つ。
すると、お兄さんがひとつだけ…と言い、私を制止させた。
「梓鶴、先に行ってて」
「は?何でだよ」
「良いから」
少し不安げな三上くんに、お兄さんは有無を言わさぬ抑圧的な声で答える。
三上くんはチッと舌打ちをして出て行った。
「あの、何か?」
「あ、いえ。対した事じゃないんですけど…」
なんだか言いにくそうに後ろ頭をガシガシと掻くお兄さん。
「何でもおっしゃって下さい」
私の促しに決心したのか、コソコソ話しをするように、私の耳元に近寄って小さな声で話し始めた。
「梓鶴って、学校で仲が良い子っていますか?」
「…?何人かと一緒に居るところは見ますけど…」
普通の声で答えるとお兄さんは人差し指を立てて、「しーっ」っと小さな声で話すように私に注意した。
何でそんな事する必要があるのか全く分からないけど、なんだかお兄さんは真剣。
「何人程ですかね…?」
端正な顔が目と鼻の先にある状況に私の顔が赤くなる。
か、顔が近い…。
「え?…よ、4人くらいですかね…?」
「4人…ですか…」
お兄さんの吐息が私の耳をくすぐった。落ち着いた低音が体に響いて、胸がドキドキする。
「え、えぇ。いつも一緒に行動してるのはその子達です」
「クラスメートですか?」
「はい…」
「その中でも特に仲良い子とか…います?」
「さ、さぁ?」
私の答えにそうですかと答えると、スッと離れていった。
「ありがとうございました」
輝かしい程のさわやかスマイルでお辞儀をしたお兄さん。
もう…、かっこよすぎです…。
「あ、あの、よろしければ今度お食事に…」
「本当ですか?先生のようなお綺麗な方に食事に誘って頂けるなんて光栄です。ですが…すみません」
私の誘いをお兄さんはサラリと断ると、失礼しますとお辞儀をして出て行った。
お兄さんがドアを開けた際、左の薬指にキラリと光るものを私は見逃さなかった。
なんだぁ、結婚されてるの?ショック…。
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