奥様は×××
prologue1
帰り支度を済ませ、コートを羽織ったときだった。
「三上!もう帰るのか?」
声の主は部屋の再奥の中心にデスクを構える部長様。
「あー、はい。仕事終わったんで」
「だったらこっち手伝ってくれないか?少しだけでも」
まじかよ、と内心思い、時計をチラ見した。現在6時半…。
何て断ろうか高速で頭を回転させている所で誰かが自分の肩に触れた。
振り返れば、そこにいたのは後輩社員。
「駄目ですよ、部長。三上先輩は新婚なんだから」
「なんだ、嫁はうるさいのか?」
「…いやぁ、」
うるさいって言うかねぇ…。
「噂に寄ると、もの凄い美人らしいですよ」
調子に乗り始めた後輩社員。ねっ!先輩!と首を傾げて俺の肩に置いた手でぽんぽんと軽く叩いた。
残念。
ウチの嫁は美人じゃなくて可愛いでした。どっから出てくんだ、その噂。まぁ、どうせ暇なお茶くみさん達だろうけど。
だが、おかげで話題が残業から俺の嫁に変わった。
これを使わない手はない。
「そーなんスよ、だから心配で心配で…」
おどけて答えた俺を見て、部長は仕方ないかと諦めてくれた。
そんなのは今しか味わえないからなぁとちょっとした体験談も踏まえてだが。
とにかく!!俺は急いでいた。
なんせ定時を半時も過ぎてるんだから。
だけど、6時に帰宅を許されて、6時に自宅に着くことは不可能だ。
それを何度言ってもウチの奥様は分かってくれないんだよ。
どうしたらいいと思う?
まぁ、そんなこんなで自宅のマンション前に到着。
ピンポーン
何故自宅なのにインターフォンを鳴らすのかって?
そりゃぁ、あれだよ。
どちら様ですか?ってエプロン姿で出てくる嫁を見たいからに決まってるだろ?
ついでに言うと、
あら?あなた!お帰りなさい
ちゅっ
ってしてもらいたいから。
そりゃ夢だもの!男なら誰だって一度は夢見ることだろ!
シーン…
まぁ、ね。現実はこうですよ。
ピンポーン
念のためもう一回押してみた。
シーン…
あーあ。残念でした。
そうです、ウチの嫁はあんまりマメではありません。
愛がないんじゃないかって?
いや、あるに決まってるだろ。有り余ってるっつーの。
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