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犬馬の心







あらかた話し終えた所で、貴一先輩は静かに口を開いた。

「……そうですか。気になる人がいる、という訳ですね?」

「は、はい。会議中だったのに…、すみません」

「いえ、良かったです。とても素敵なことですよ」

「素敵なこと…?」

「ええ。自分で気がついていないのですか?」

「何のことですか?」

俺の発言に驚いた表情の先輩を見て、頭の中にハテナが飛ぶ。
先輩はそんな俺の間抜けた顔を見て微笑んだ。

「…恋です。守はその方に恋心を抱いているんです」

「そ、そ、そんな!恋だなんて!!」

顔が一気に赤くなるのが分かる。熱くて恥ずかしくて両手で自分の顔を覆った。

「ふふ。それで、その方のお名前は?」

「あ、あの、えと、…芹沢です。あの、強面の…」

名前を言うのもなんだか恥ずかしくて躊躇した。さっきまでそんな事なかったのに。
…恋…。俺が、芹沢に……恋…?
視界がピンク色に染まり、ふわふわと体が軽くなった錯覚に陥る。まるで空でも飛べてしまうかのように…。
きっと恋の所為だ。俺の頬が染まるのも、芹沢の名を口にするだけで恥ずかしくて緊張してしまうのも、この天にも上るような心地も。


頭の中が一面、花畑と化した俺は先輩が何かを呟いていた事など全く耳に入っていなかった。



「…芹沢…。彼は確か…例の子と同室…」



第3章 ごはんは「よし!」って言ってから 終了




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