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犬馬の心
1思いつく限りの全部で




海でのバイト期間を終え、学校に戻った俺たちは色々なところへ出かけた。
町まで降りて買い物に出かけたり、電車に乗って少し遠出をしたり。
蘭のわがままは健在だが、何だかんだ楽しい夏休みを過ごしていた。
早いもので夏休みは残すところ2週間になる。寮にもちらほら生徒が帰省先から戻ってきて、少しずつ普段の騒がしさをとりもどしつつあった。

昨日は少し遠出をして隣町まで出かけたもんだから、今日は寮でのんびりする予定だ。
ふとダイニングの時計を見るともう12時を廻っていた。道理で腹が減ったわけだ。

「蘭、昼飯どうすっか」

ソファーに仰向けに寝転んで漫画を読む蘭に声をかける。
蘭は漫画から目を離さずに、「うーんlと唸り声をあげる。数秒ほど悩んでからやっと答えをだした。

「ピザがいい」

「ピザ?あぁ、昨日買ったやつか」

「そう。それ、リンゴの載ったやつも」

「へいへい」

冷凍庫を開けてパックされた冷凍のピザを2枚出し、封を開けてオーブン機能のついた電子レンジに入れる。
昨日行った隣町にはど田舎ながら、ど田舎なりの大きめショッピングモールがある。以外にも都内にあるような有名店が期間限定で出店していた。
その中で見つけたピザ屋は最近日本に進出してきたらしく、長蛇の列だった。待ち時間が長すぎて食べるのは今度にしようと言ったが我侭な蘭はどうしても食べたいとダダをこねた。
だが午前中に遊びすぎて昼飯の時間が随分ずれていたこともあり、俺も蘭も腹が減って待てるような状態じゃない。
それでも鳴り止まない蘭の「食べたい食べたい食べたーい!!」とうるさい我侭攻撃。それを片耳にうけつつ思案していると、冷凍された土産用を見つけたのだった。
寮で食えばいいだろと何とか説き伏せた結果がこのピザだった。

「あ!」

皿を並べて準備を続けていると、寝転がっていた蘭が声を上げて飛び起きた。

「なんだよ」

「面会!」

「面会?」

面会……。聞きなれない言葉に思わず豚箱が思い浮かぶ。
あ、そうか。そういや面会室ってあったな。
この学校は全寮制だが届けを出せば外出はできる。それでも門限まで帰ってくることができる距離までだった。
大型連休か、あるいは特別な理由がない限り基本的に外泊はできない。
そんな訳で家族とはしばらく会えないことになっている。
そうは言っても男子高校生だから家族に会いたいよぉと泣くようなやつなんて居ない訳で、生徒からすれば特に困ることはなかった。
困るのは彼女に会えないとか、ナンパした子とは休憩程度でしかヤれないとかそんなんだ。
それでも親は子どもの顔が見たくなるらしい。そのために面会室があってあらかじめ電話で予約すると使えるらしい。

俺には関係のない代物過ぎて存在を忘れていた。
しかし、蘭に面会だなんて。
今まで1度もなかったから今回が初めてだ。コイツに誰か会いに来るなんて意外だ。
なんて思っても良く考えればコイツの家族関係を把握してるわけじゃないから思い込みでしかないなと急に自覚した。
自覚したらなんだか少し胸がもやっとする。

(や、でも母ちゃんが病気だって言ってた以外そういう話したことねーし。つーか俺だってなんも言ってねーし)

だからもやっとする理由なんてない。
ただちょっと、昨日までずっと一緒に行動してたもんだから、全部知ってるなんて気になってた。
それを自覚しちまったから、急に……。

「ちょっと行ってくるね」

「え、ちょ、蘭!ピザ冷めちまうぞ!!」

「すぐ終わると思うから」

ったくあの野郎。
ぱたぱたと少し大きめのスリッパを履いた足がドアの向こうに消えた。
人の気もしらねーで。
背後からチーンッ!と元気良くレンジが鳴った。








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