犬馬の心
3
「ねぇー痛い!離してよ!」
キイキイ高い声で不満を訴えてくる。それでも無視して歩き続けていたら空いてる方の手で俺の腕に爪を立てやがった。
「イテッ」
あまりの痛みに足が止まる。振り向くと蘭はほっぺたを不満げに膨らまして睨んでいた。
「痛いのはコッチですー」
拘束を振りほどいて捕まれていた手首をさすりながら俺を睨みあげている。
「お前なぁ!いい加減にしろよ。わかってんだろ」
「犬真が遊んでくんないからじゃん」
あーもう。
「わぁったよ」
結局いつも俺が観念して小悪魔さまの仰せのままにするんスよ。わかってんよ。
「そんかわり変なやつにホイホイ話しかけられたり、付いてくんじゃねーぞ。あの処理がどんだけめんどくせぇか分かってんだろ」
そうなのだ。蘭と居て何がめんどくさいかと言うと、蘭のわがままなんかよりも蘭に群がるナンパ共を蹴散らすことなのだった。
大概は俺の顔を見ただけで逃げるが、相手が数人の場合、喧嘩寸前になることが多々あるのだ。俺の顔に少し怯んだとしても仲間が居ると言うことで勇気付けられるのだろう。
この前など俺対4、5人の大乱闘になりかけて危うく警察沙汰になるところだった。
思い出すだけでも疲れるというのに…。
「わかったわかった。はやく行こ!」
軽くあしらいやがって。コイツぜってー俺の苦労をわかってねぇ。
仕方なく、海に遊びに行くために下は水着に、上は背中が見られるとまずいからパーカを、あと一々ビビられても面倒だからグラサンをかけた。
ホテルに着替えに行った蘭を待ち、浜へ向かった。
浜ではカップルや学生と見える集団、家族連れと人で溢れかえっている。
まずは「カキ氷が食べたい」という蘭のために何軒もある海の家から適当に選んで買いに行った。
そんなわけだが……
居ねぇーっ!!!
さっきまで隣に居たはずの蘭がいない。
両手にカキ氷を持ち、店の外へ慌てて出る。
周囲を見渡すと、少し離れたところで見慣れた小さめの後姿が数人の男達に囲まれていた。
「なぁなぁ、俺達と遊ばね??」
「えー、どうしよっかなぁ?」
「どうしょっかな、じゃねぇだろうが」
蘭の頭を買ってきたカキ氷を持った手で小突く。
ちょっと目を離すとすぐコレだ。
集団に近付くと小柄な後姿は案の定蘭で、先程の忠告などなんの意味もなく、浜に来てから3回目のナンパにあっていた。
背後から突然やってきた俺に、ナンパ野郎共はすかさずガンを飛ばしてくる。
騒ぎを起こす前に蹴散らそうとサングラスをさげて睨みつける。
「あ?」
すると男たちは「男連れかよ」と口では云いつつ、明らかに俺の目に怯えた様子でさっさと離れていった。
男連れもなにも、コイツも男だっつーの。と内心で毒づく。蘭は下はショーパンに、上はティシャツとパーカーを羽織っている姿だからか女と間違えたのだろうか。
どっちでもいいが簡単に去ってくれる奴等でよかった。
「さっすがー」
「うるせぇ。溶けちまうからさっさと食うぞ」
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