犬馬の心
3
感動を踏みにじられて落ち込む俺を、目の前の光景はさらに追い込んだ。
かぽーん
って効果音、必要ない。
なぜなら俺が想像していた大浴場とは全く違うものだったからだ。
富士山、安っぽい白タイル、黄色いプラスチック製の桶…とか、何ひとつ無い。
壁や床はブラウンとブラックの大理石で統一されており、シックで大人っぽい雰囲気。さらにオレンジ色の間接照明がお洒落に浴室内を照らしている。
しかも広い浴槽には金色のライオンがあって口からお湯が流れている。ジャグジーもサウナもあるし、露天風呂も……。
(なんだここ!!!!)
広い浴槽に浸かり、縁にもたれかかる。
(つ…疲れた…)
俺は確か熱っぽい身体を温めるためにここに来たはずだ。それなのにあまりにも想像と違いすぎてなんだかどっと疲れが押し寄せてきた。
でもやっぱり大きな風呂は身体が伸ばせて良い。ダルイ身体でここまで来たかいがある。
お湯に浸かってぼんやりしていると今までの疲れがふっ飛ぶ……
(って……あ…れ……?)
突如、またもや視界がぐにゃりと歪んだと錯覚させるほど、鈍い痛みが来た。
やばい…すごく身体がダルイ。さっきからダルイのは変わりないが、今までの比じゃない。
(いや…違ぇな…。ダルイんじゃねぇ…。)
なんだか熱い。熱くて胸が異常にどくどく鳴ってる。
風呂だから分かりにくいが身体からは異常な量の汗が出ていた。
(……ンだ、これ……)
ドクン、ドクン
身体の内側に響くように鳴り続ける鼓動。こんな事は初めてだ。元々丈夫な身体で滅多に風邪なんて引かない。
医者に掛るなんて生まれた時と歯医者くらいしかねぇし。
だが明らかに異変が起きている。それを自覚した瞬間、下半身にズクンと疼きに似た衝撃を感じた。
(…ッ…!?!?)
驚いて咄嗟にタオルを巻いた腰を見る。そして俺は明らかな身体の異変に目を疑った。
……………た、勃ってやがる…ッ!!!!!!
お湯越しのために揺れて見えるが、腰に巻いたタオルが不自然に何かに引っかかっている。
そうでなくても、敏感な所が揺れる布に擦れて甘いうずきを感じる。布に擦れるだけなのにそれ以上の刺激が与えられている。普段ならこんな微量な刺激なんてなんともないのに。
思わず湯船から立ち上がった。
不自然にタオルを押し上げるソレ。確実に勃起している。
興奮する要素なんて何も無いはずだ。ましてそんなこと想像した覚えもねぇ。断じてそんな事、一切考えてなかったかんなッ!!!
(…ど、どうなってんだ…!?)
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