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犬馬の心
1初めての大浴場で






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体調はかなり悪い。だが俺の心はものすごく晴れていた。
なんせ…………憧れの大浴場!!!!

ずっと行きたくて仕方なかった。
デカイ風呂にあこがれる気持ちは人一倍強い。
なんせ5歳の時から背中によろしくないものを背負ってる身だからな。
親父も横内の描いたものではないにしろ背中には立派な桜吹雪があって、親子ともども【刺青のある方はご遠慮ください】の張り紙の前に立ち尽くすしかなかった。
そんな俺たちの横を通り、仲良く銭湯の暖簾をくぐる家族がうらやましかったぜ…。

「犬真、さっきからニヤけてて気持ち悪いよ」

「う、うるせぇな」

「あ!待って」

「ん?」

脱衣所でワイシャツを脱ぎ、露になった俺の背中を見て蘭は俺の動きを止めた。
ちょこちょこと俺の後ろに回る。

「触ってもいい??」

「あ?あぁ」

普通の人には珍しい刺青。蘭は触れてみたくてうずうずしてたみたいだ。小さい子供の様な蘭に思わず笑みがこぼれる。
背中に蘭の小さな指が触れた。始めは恐る恐ると言った感じだったが徐々に慣れてきたみたいで線を辿っているのか指が背中を動き回る。
ちょっぴりくすぐったくて身をよじりそうになった。

そんな俺をよそに、蘭は感動したように声をもらす。

「すごいね…」

「まぁな」

「痛かった?」

「それなりに」

「完成するのにどれくらいかかったの?」

「んー、少しずつ足してったからな。10年だ」

10年、と噛み締めるように呟いた蘭。しばらく何も喋らずに刺青を撫で続けた。
体調が悪いからか火照る体には蘭のひんやりとした手が心地よくて俺も止めなかった。






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