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犬馬の心







二人が話し込んでいる間、蚊帳の外の俺はコーヒーを飲みながら理科室をうろうろしたり、どうしても覚えられない元素記号の表をぼんやり眺めたりしていた。

そんな中、ふと有る事に気付く。

さっきからやたら蘭と目が合う。
ぼさぼさ野郎もなんだか変だ。いや、変なのは始めっからだが。
腕時計を見ては蘭をちらちら見ている。

(あぁ、俺に早く消えて欲しいってことか?)


俺だって早く帰りてぇよ。



結局1時間も理化室に居てしまった。
ようやく話も終わり、帰ろうと席を立つ。

「ら、蘭君帰っちゃうの!?」

「はい!ありがとうございましたぁっ」

明らかに帰ってほしくないオーラの出ているぼさぼさ野郎を、空気読めない天然っ子を装って振り切る蘭。
その鮮やかさに恐ろしくなるがおかげで解放された。




*******



自室に戻った俺は、学食は混んで居るから嫌だという我がままな蘭の為にわざわざ夕食を作ってやった。
ただえさえ好き嫌いの激しい蘭の飯を作るのはクソメンドイ。

そんなこんなでテレビを見ながら寛いでいると、時刻はもう22時。
まだ風呂に入っていない事を思い出し、ソファから立ち上がろうとして俺は戸惑った。

一瞬、視界が歪んで身体がふらついたのだ。
気だるい。火照って熱いし、頭も重い。

(やべぇ、風邪ひたかも)

「犬真?顔赤いけど大丈夫?」

蘭は立ち上がるのを止めた俺を変に思ったらしく、珍しく優しい言葉をかける。
隣に来るとソファに膝立ちになって俺の額に手を当てた。膝立ちしてる分、蘭の方が高くなり、いつも見下ろしている顔に上から覗き込まれた。

「少し熱いね。あ、そうだ!大浴場に行かない?身体あったまるよ?」

「行けるわけねぇだろ」

ちょいちょいと自分の背中を指さす。
わざわざ自分の弱みを人にさらけ出せるはずがない。
しかし蘭はにっこり笑った。

「大丈夫だよ。今の時間じゃ誰もいないもん」

あー、確かに。そもそも大浴場は混雑を避けるために各学年ごとに使用時間が決まっている。20時から21時の間が1年で、それが最終。

「ん?でも開いてねぇだろ」

すると蘭はポケットからじゃらじゃらといくつも鍵の付いたキーチェーンを取りだしてにんまり。

(あー、そういうことな。)

蘭の持っている沢山のカギは様々な人がくれたらしい。
おおかた散々遊びまくってた奴らだろ。


身体は相変わらずだるいし、少しふらつくが着替えやタオル何かを手にして部屋を出た。






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