犬馬の心
5
人間は権力に弱い。権力を手に入れるには暴力による恐怖で人を従わせる方法がある。
けれど力のない僕にそれは不可能だ。
そんな僕はにもう一つの方法がある。人は快楽にも弱いのだ。僕の人を虜にする容姿は相手に受け入れられやすい。
一度受け入れられればあとはこっちのもの。自分が男であることもあって、相手の体のイイトコロなんて知り尽くしている。
けれどそれが使えないとなると少しばかり厄介だ。
……こまったなぁ。
少し考えたところでふと思った。
先日、押しかけてきた先輩たちを蹴散らした犬真の姿。
あの喧嘩の強さはすごかった。
そうでなくても顔面がすごいしね。
(……使えないことはないか)
そこまで考えた所でポケットの中で携帯が振動していることに気づいた。
取り出してディスプレイを見るといつだったかちょっとだけ遊んだ生徒の名前が表示されている。
またか…。しつこいな…。
僕の親衛隊を作ろうという動きはもうある。でもこの学園では生徒会に認められなければ親衛隊を結成することは出来ない。
おかげで誰を筆頭にということがまだないのだ。つまり、僕の親衛隊になりたいという人たちが小さな集まりでいくつもあるということ。
だから好き勝手にアプローチしてくる。僕に迷惑がかかってるってことくらい考えてよね。
やっぱり今日告白してきた人に犬真と付き合ってるって嘘付くべきだったかなぁ…?
一人に言えば皆に知れ渡るはず。僕に彼氏が居れば付き合いたいと本気で思ってるアホどもを牽制できる。
しかも相手があんなヤクザみたいな奴ならなおさらびびって言い寄るなんて出来ないだろうし。
僕が求めるのは僕のために動いてくれる人々だけだ。
『付き合いたいなんてそんな恐れ多いこと…。俺たちは蘭くんの傍に居れるだけで幸せです』みたいな人たち。
大分救えない頭の持ち主たちだけど暴走することもなければ、僕を傷つけることもない。
何より、僕の言葉が絶対という姿勢がいい。
そういう宗教染みた人たちは既に沢山いる。僕はその人たちだけで十分だもの。
あー…、僕もちょっと調子に乗りすぎちゃったな。遊びすぎちゃった。
もう僕にハマりきってる人も大分ふえたし……
犬真がうるさいのは丁度いっか。
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