犬馬の心
7
堪えきれない思いを必死に伝える相手に対し、蘭は少し困った顔をしている。
男が男に告白する場面を見たのは初めてだ。
でも蘭のかわいらしい風貌からか、意外と普通。あんまり違和感がない。
蘭の奴どんな返事を返すんだ?
『良いけど、50番目の彼氏ね?』とか?
それとも悪魔バージョンで『はァ?僕と付き合いたいなら地球を30周してワンって言ってよ』とかか?
だが、そんな俺の予想とは全く違う答えだった。
「僕…今好きな人が居て…。だから、先輩の気持ちには応えられないです…」
「…あ………えっ!?」
蘭の言葉に相手の声が上ずる。明らかに驚いていた。
当然のことながら俺も例外ではない。声に出してしまう寸での所で口を押さえて内心で絶叫した。
(はぁぁぁぁああぁ!?!?)
ア、アイツ好きなやつとか居んのかよ!?
信じられない。あまりの衝撃でかるく目まいがする…。
途切れながらではあったが、しっかりと「好きな人が」という言葉を口にしていた。
花壇に隠れている俺にすら聞こえた声だ。ふざけている風でもない。真剣、それ以外のなにものでもなかった。
もう一度確認しようと蘭を見てもその表情は硬く、真っ直ぐに相手を見つめている。
どうやら本当らしい…。
どういうことだ…?好きな人が居るのに他の人とエッチしてたのか??
いや、やっぱり、あの相手が好きな人とか……?
でも「ありえない」と言った蘭の顔は露骨に嫌悪を抱いていた顔だったし……。
あぁッ!分っかんねぇッ!
頭を抱え、悶絶する俺の耳に届いたのは搾り出すように呟いた相手の言葉。
「そ、それってあの人??強面の…」
(はぁッ!?)
突然自分の事をこの場に出されて胸が跳ねた。
(それはあり得ねぇ!!)
あり得るわけがない。あいつは俺をただの強面の下僕にしか思っていないのだから。
そもそもアイツが俺を好きになる要素もなければ、俺が男であるアイツを好きになることも絶対にない。
(一番あり得ないパターンだろ。)
女とも付き合った事がないのにいきなり男なんかと……
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