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犬馬の心







堪えきれない思いを必死に伝える相手に対し、蘭は少し困った顔をしている。

男が男に告白する場面を見たのは初めてだ。
でも蘭のかわいらしい風貌からか、意外と普通。あんまり違和感がない。

蘭の奴どんな返事を返すんだ?
『良いけど、50番目の彼氏ね?』とか?
それとも悪魔バージョンで『はァ?僕と付き合いたいなら地球を30周してワンって言ってよ』とかか?
だが、そんな俺の予想とは全く違う答えだった。

「僕…今好きな人が居て…。だから、先輩の気持ちには応えられないです…」

「…あ………えっ!?」

蘭の言葉に相手の声が上ずる。明らかに驚いていた。
当然のことながら俺も例外ではない。声に出してしまう寸での所で口を押さえて内心で絶叫した。

(はぁぁぁぁああぁ!?!?)

ア、アイツ好きなやつとか居んのかよ!?

信じられない。あまりの衝撃でかるく目まいがする…。

途切れながらではあったが、しっかりと「好きな人が」という言葉を口にしていた。
花壇に隠れている俺にすら聞こえた声だ。ふざけている風でもない。真剣、それ以外のなにものでもなかった。
もう一度確認しようと蘭を見てもその表情は硬く、真っ直ぐに相手を見つめている。
どうやら本当らしい…。

どういうことだ…?好きな人が居るのに他の人とエッチしてたのか??
いや、やっぱり、あの相手が好きな人とか……?
でも「ありえない」と言った蘭の顔は露骨に嫌悪を抱いていた顔だったし……。
あぁッ!分っかんねぇッ!

頭を抱え、悶絶する俺の耳に届いたのは搾り出すように呟いた相手の言葉。

「そ、それってあの人??強面の…」

(はぁッ!?)

突然自分の事をこの場に出されて胸が跳ねた。

(それはあり得ねぇ!!)

あり得るわけがない。あいつは俺をただの強面の下僕にしか思っていないのだから。
そもそもアイツが俺を好きになる要素もなければ、俺が男であるアイツを好きになることも絶対にない。

(一番あり得ないパターンだろ。)

女とも付き合った事がないのにいきなり男なんかと……






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あきゅろす。
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