犬馬の心
6
蘭の身体は俺の腕の中にすっぽりと収まる小ささで、力を入れたらすぐにでも壊れてしまいそうだ。
それでもプライドが許さないのか必死に突っ張ってる。
そう思ったら抱きしめている腕に自然と力が籠もった。
「俺が守ってやっから」
「…え?」
腕を放し、蘭の顔を見つめる。
やっぱり泣いていたその目は涙で潤んでいて少し赤かった。
蘭は驚いた顔からムスっと頬を膨らませて顔をそらした。
「と、当然でしょ。僕のイヌなんだから!!」
「はいはい」
強がる蘭が可愛くて子供をあやすように撫でたら大人しく従ってた。
これじゃどっちがワンコかわかんねぇ。
「んじゃ、飯にすっか」
蘭の涙が収まったのを合図にポンポンと頭を撫でてキッチンへ向かおうと離れようした。だが、腕をつかまれて引き寄せられた。
「あ?…!?!?」
そして、一瞬、柔らかいものが唇に触れた。初めての感触。
目の前には蘭の顔があった。長い睫の奥の、大きな瞳には俺の驚いた目が写っていた。
ふわっと良い香りが俺の鼻をくすぐって離れる。
「ふふっ!ご褒美だよ」
蘭はニッコリ笑ってそう言うと、軽い足取りでキッチンに向かった。
固まった俺はゆっくりとした動きで自分の唇に触れる。
…………。
「ふざけんじゃねぇーっ!!!」
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