犬馬の心
5
んだよ。一人相手に大勢でこれかよ。情けねぇな。
それでも久々に暴れたからか、後ろに流すようにセットした髪が少し崩れて目にかかった。かきあげようと手を目の前に持ってきたが指に血がついている。無論俺の血じゃない。
「オイ、蘭。終わったぞ」
シーン
血の付いた手を下ろして髪を直すのは後にしたが蘭からの反応がない。舌打ちをしてバスルームに向おうと背を向けた。
「…っ…」
すると、トンと軽い衝撃が背中に伝わった。
部屋から飛び出してきた蘭が俺の背中に無言で駆け寄って抱きついたのだ。俺の広い背中に額を当て、シャツを握りしめているその手は微かに震えていた。
溜め息を吐いて向き直ると震える蘭を抱き締めた。
「…ヒクッ…ッ…」
(……ったく)
嗚咽を漏らす頭を撫でてやる。
普段の横暴で悪魔の様なコイツからは全く想像できない姿。
『強姦されて嫌な気持ちにならない人は居ないでしょう?』
…あぁ、全くその通りだ。
「…怖ぇなら怖ぇって言えよ」
「う、うるさい…ッ。犬のくせに」
腕の中で悪態を吐く蘭だが、それが可愛く思えて自然と笑みがこぼれた。
「ったく素直じゃねぇな」
「…ク…ヒクッ…」
「誰だって嫌な事はあんだろ」
「べ、別に…。初めてじゃないし、これくらいなんともないもんッ!ヒクッ」
なんともないやつが震えながら泣くかよ。
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