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犬馬の心







あれほど騒がしかった蘭への言葉が一瞬にして止み、変わりに聞こえてきたのはひそひそ声。
まるで初めて食堂に行った時の様に、人々は怯えた目と引きつる顔で俺を見ていた。

怯え、戸惑い、非難の視線。

先日目立つことはしないようにと反省したばかりなのに早速やらかした。

「…やべ…」

疎まれる事には慣れていても良い心地がするはずなんてない。
少しづつ心に冷たいものが流れるような感覚。
一刻も早くこの場から立ち去りたくなる。
「見てんじゃねぇよ」と怒鳴れば終わるのかもしれない。だが、ここは不良のたまり場でもなければヤクザの集会場でもない。
坊ちゃん達の学園なのだ。自ら浮くような事はしたくない。

「犬真くん!」

そんな、孤立した俺を救ったのは蘭だった。
蘭は俺の姿を見つけると一瞬で輝く笑顔になり、真っすぐ駆け寄ってくるやいな、腕を目一杯広げて抱き付いた。
灰色に点った紅一点。それがじんわりと広がるようだった。


「良かったぁ…。はぐれちゃったかと思ったよ」

「あ、あぁ。悪ぃ…」

場の雰囲気をもろともせず、平然と俺に話しかける蘭に周囲は驚きを隠せず呆然としていた。
この場の空気が一瞬にして変わった。

「さ、行こう?」

開けた道を俺の手を引いて周囲の視線などもろともせずに堂々と闊歩する。

(……蘭…)

俺の手を握る小さな柔らかい手。
足早に俺の前を歩く蘭の顔は見えない。

「みんなまた今度ね?」

最後にくるっとみんなの方に向いて、バイバーイと可愛らしく言った蘭をこの時だけは抜かりねーなと茶化す事が出来なかった。





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あきゅろす。
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