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犬馬の心






一度廊下を歩けば蘭を呼び止める声の嵐。しまいには人だかりが出来き、廊下が封鎖されてしまった。
俺が初めて蘭の人気の高さを実感した瞬間だった。

「蘭くん、これから僕の部屋来ない?」

「今日は遊んでくんねーの?」

「次はいつ?」

「これ、受け取って!」

「素敵…」


その一人一人に「今日は無理なんだ」「ありがとう」とか丁寧に答える蘭。
勿論、あの花の様に可愛らしい笑顔と鳥の囀りの様な美しい声で。

それを完全に茅の外状態で見てる俺。
蘭の演技力の高さにはびっくりだ。

(ははは。みんな騙されてんぜ)

しかし、何処に行くのか分からないがこの人だかりでは前に進めない。
蘭もらちがあかないと思ったのか、少し困った顔をしている。
小さな背できょろきょろとし始めたので、とっさに俺を探しているんだと思って声を張り上げた。

「蘭!」

何気なく上げた俺の声に人々の視線が集中する。
俺はハっとした。

「だ…誰?」

「超怖い」

「蘭くんを呼び捨てにしたよ…」

「ヤクザ!?」




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