犬馬の心
7
一度廊下を歩けば蘭を呼び止める声の嵐。しまいには人だかりが出来き、廊下が封鎖されてしまった。
俺が初めて蘭の人気の高さを実感した瞬間だった。
「蘭くん、これから僕の部屋来ない?」
「今日は遊んでくんねーの?」
「次はいつ?」
「これ、受け取って!」
「素敵…」
その一人一人に「今日は無理なんだ」「ありがとう」とか丁寧に答える蘭。
勿論、あの花の様に可愛らしい笑顔と鳥の囀りの様な美しい声で。
それを完全に茅の外状態で見てる俺。
蘭の演技力の高さにはびっくりだ。
(ははは。みんな騙されてんぜ)
しかし、何処に行くのか分からないがこの人だかりでは前に進めない。
蘭もらちがあかないと思ったのか、少し困った顔をしている。
小さな背できょろきょろとし始めたので、とっさに俺を探しているんだと思って声を張り上げた。
「蘭!」
何気なく上げた俺の声に人々の視線が集中する。
俺はハっとした。
「だ…誰?」
「超怖い」
「蘭くんを呼び捨てにしたよ…」
「ヤクザ!?」
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