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犬馬の心







親父に連れられて、初めて行った自分ちと差ほど大差ないおんぼろの借家。

『おとうさん、ここ何処?』

『あぁん?なんでい、犬真。ビビってんのか?ここは横内っつー奴の家だ。お前の誕生日だろ?俺が良いもんくれてやる』

(良いもん?なんだろう)

目つきは悪いにしても幼気で世間知らずだった俺は親父の言う“良いもの”に心を弾ませ、ワクワクしていた。


しばらくすると横内と言う親父と同年代らしきオッサンが現れ、いきなり『脱げ!』と怒鳴られて毛布を引いた床の上にうつ伏せに寝かされた。
始めは背中を滑る様に走らされる筆がくすぐったくてたまらなかった。
思いのほか作業は長く、幼かった俺は眠気にうとうとしていた。
意識がはっきりしたのは突如襲ってきた激痛によって眠りを妨げられたからだ。

ツプッ・・・ざくッ

『ひッ…うぎゃぁぁぁ!!!痛いよ!止めて!!おじさん痛いよぉぉ!!!』

『我慢しろや!オトコやろ!』


針が体を刺す痛み。それは何時間にも及んだ。あれ以上に長く辛い時間を俺は未だに知らない。

耐え難い時間を耐え、出来たのは一輪の哀愁漂う彼岸花だった。
5歳の幼い体にに小さく咲いた花。
だがこの花はほんの序章に過ぎなくて、それから毎年、誕生日に少しずつ刺青は足されていった。



そして中3の春、漸く完成。



刺青と言えば、中央に構えるのは虎や登り龍。
だが、俺のは一風変わっていて完成した際に思わず自分でツッコミを入れてしまった。


完全にオカシイ“ソレ”。





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