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犬馬の心






蘭を起こさない様に濡らしたタオルを頬に当てた。
かすかに「…ん」と声が漏れ、眉を寄せたが起きる気配はない。
他に外傷がないかと見てみれば手首にも強く握り締められた痣があった。

ルームメイトなのに蘭の事をあまり知らない。
寝ている蘭を見てふとそんな事を思い、少し寂しく思えた。

この傷はあまり部屋に帰って来ない事と何か関係してるのか?
…でも聞いた所でお節介になってしまいそう。

(…人に言えねぇ事は俺にもあるしな)

俺は蘭が寝ている隙に風呂に入ってしまおうと立ち上がった。


*******


(『人には言えない事』…か…。)


湯船から上がった俺は洗面所の鏡の前で、下着とズボン姿で髪をバサバサとタオルで雑に拭いていた。

鏡に写る親父ゆずりの強面。
この顔が他人に与える印象は『ヤクザ』らしい。
勿論、俺はヤクザじゃない。
タケルにだって言われたけど否定した。


だけど……。


実際は……全く関係ない訳ではない。






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