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犬馬の心






必死に構えたが何時まで経っても痛みが来ない。
うっすらと目を開けると先ほどまで差し出されていた手がなくなっている。
そして相手は「………悪かったな」とぼそっと言うと、スッと立ち上がって行ってしまった。

全身から力がスッと抜け、だらんと背中を丸めた。

「……ぷはぁッ」

無意識のうちに止めていた息を思いっきり吐き出し、安堵のため息を吐く。激しく鳴り響く動機を何度も深呼吸して落ち着かせた。

(た…助かった……)



「誰?アイツ!超怖い!!」

「やばくねー?」


ホッとした僕の耳に届いた周りの声。
室内はざわざわと騒がしさを取り戻し、近くのテーブルで笑いが巻き起こった。

「生徒会以外で食堂を静かにした奴は初めてじゃないか?」

「強面でって神業!」


未だに立てない僕。
その笑い声を聞いていたら、何だか胸がチクりと痛んだ。

(…あ……)

『………悪かったな』

ぼそっと発せられたあの言葉。
振り向いたら、寂しそうな背中が人混み消えていった。


(…僕は……酷い事をしてしまった……)


僕は食事の途中だったのも忘れてゆるゆると立ち上がり、食堂を後にした。






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