犬馬の心
8
(…て……天使……?)
目の前に、俺と同様に額を押さえて立っている誰か。
その容姿は、思わず“天使”が舞降りたのかと思う程綺麗だった。
いや…………可愛い……だな。
ふんわりとした栗色の髪は、小顔を更に小さく見せ、真っ白なクリームチーズの様な肌を桜色に染めた頬がなんとも可愛らしい。
(……キユーピー人形…?)
“可愛いモノ”に当てはまるレパートリーが恐ろしく少ない俺は、その中でも上位に入るキユーピー人形が頭をよぎった。
東にはキューピー人形が“可愛い”に当てはまるかは微妙だろって言われたけど。
目の前のまるでケーキの様な顔にちょこんと乗っている、ぷっくりとした赤い唇が薄く開く。
そして囀る小鳥。
「あの…、もしかして…芹沢くん?」
「…え……お、おう」
遠慮がちに聞いてきた天使。
イマイチはっきりしていない意識で答えると、天使は大きな瞳を細めて微笑んだ。
「クスクス。こんな所で寝たら、風邪ひくよ?」
(……花だ。……花が綻んだ……)
「……?芹沢くん?」
天使が俺の目の前で、おーいと小さな手を平をヒラヒラさせる。俺は何処かにトリップしていた意識を引き戻した。
そして自分の状態に漸く気付く。
どうやら、シャワーを浴び終えた俺は、同居人が戻って来るまで待って居ようとソファーでテレビを見ていたら、知らぬ間にうたた寝をしてしまったらしい。
「……もしかして、ねこにし?ねこにし…らん…?」
「あー、やっぱり間違えた」
天使は桜色に染まるほっぺをぷくーっと膨らませて……拗ねた。
(…か、可愛い……)
「“ねこにし”じゃなくて、こ・に・し!ちゃんと覚えてね?芹沢犬真くん」
ね?と首を傾げる猫西は言うまでもなく……可愛い。
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