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犬馬の心







どうやらこの学園には各部屋に1つづつバスルームが在るにも関わらず、大浴場も設けてあるらしい。

(大浴場かぁ…憧れる)

バサッと服を脱ぎ、棚に置いてあった真っ白いタオルを掴んで浴室に入ると、鏡に映った自分の後ろ姿に目が向いた。
見慣れた背中ではあるが、いつ見ても溜め息しか出ない。
自分の目つきが悪い事を親父の所為だと恨んだりはしないが、流石に『これ』だけは何度見ても腹が立つ。

『これ』の所為で何度危ない目に合った事か…。

(こんの見られたら終わる…)

大浴場は諦めるのが身のためだと、自分に言い聞かせて簡単にシャワーを浴びた。



*******



真っ白でぼやけている視界…。
その中心に誰か居る。
何か叫んでる…。

視界が徐々にクリアになって行き、もう少しで顔が判断出来そう。

(…あ…東…?)

東だ。
こっちに向かって何か叫んでる。


『…ざけんな!俺等は親友じゃなかったのかよ!?この裏切り者!!!』

(東ッ!!!違うんだ!!!聞いてくれ!!)

背を向けて走り出した東に手を伸ばすが届かない。

(待てよ!!オイ!!)

どんどん小さくなっていく幼馴染の背中。
それどころか、何処からともなく別の誰かの声がする。

『…い………おー……』

俺の周りに響いていたドスの利いた低い声なんかじゃない。
もっともっと高い音で…そう、小鳥のさえずりの様な可愛らしい…声……。

『……し……もし……』

(何だよ!?東が行っちまうだろ!!!)

「もしもーし」

「…るせぇっ!!!!!!」

ゴチーン


鮮明になった声。
そして突如額に感じた、物理的な痛み。

「痛ぁいっ!!」
「痛ぇっ!!!」

額を押さえて、パチパチとまばたきを二、三度すれば、視界は一点の曇り無く、はっきりとなった。






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