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もし、過去を飼えるなら
<六>

営業所に戻ると、三宅がマイクロバスの中で軽く皆に挨拶をし、今日はお開きとなった。

仕事中のB班を尻目に、みんなそれぞれの車で営業所前の坂を下って行く。

福田は自家用車を持っていないので、佐戸田が送ってやる事になった。

「福田、どないやった」

佐戸田はエンジンを掛けながら、律義にシートベルトを締める福田に聞いた。

「え、あの、何がですか」

「今日。新歓会」

福田はシートベルトを持ったまま静止した。

「……ああ、ええと、大丈夫です」

しばしの沈黙のあと、不自然な答えが返って来た。

佐戸田は思わず噴き出してしまい、前のめりになってハンドルに頭をぶつけた。

「いや、おもろかったかって聞いとんやがな。大丈夫ってなんやねん」

「え、はい、いや楽しかったですね」

佐戸田は堪らず大笑いした。

「福田、お前日本語変やぞ。笑かすな」

「えっ、変ですか」

「おう、変や。顔も変や」

「ええっ」

福田は目を見開く。
それを見て、佐戸田は引き笑いで息が出来なくなった。

「……いやあ、お前おもろいわ。気に入った、福ちゃん」

「ええと……ありがとうございます」

福田は恐縮した。

佐戸田は笑いがおさまるのを待って、車を発進させた。

「俺のこと、サトさんでええよ。みんなそない呼ぶし」

「え、サトさん、ですか」

「そう。営業所の連中な、なんでかわからんけど仲良くなったらナンチャラちゃんとかナントカさんって呼びよんねん。みんな安直に名字の頭やけどな」

「え、でも五十嵐さんは違いますよね」

「――ああ、ガラやんはな。イガちゃんって言いにくいし、もういっこ由来があんねん」

「由来?」

「そう。ちょっと酷いけどな。まあ愛されとる証拠や」

「どんな由来ですか」

「ああ、ガラやん、っていうのはな――」



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