(ただしドS流)
<六>
酔っ払いが近付くにつれ、土方はその着物に見覚えがあることに気付いた。
「ーー万事屋じゃねーか」
「ひーじかーたくーん」
へら、と笑いながら手を振る銀時の手には何故か一升瓶。
すっかり出来上がっている様子だった。
「土方くん、何してんのお?」
「……こっちの台詞だ。よく入れたな」
「ヅラが入れてくれたー」
「いいのか、真選組相手にんな事言って」
「いいのいいの、気にしない」
そう言って銀時は日本酒をらっぱ飲みしようとする。
土方は慌ててそれを止めた。
「待て待て、もう飲むな!」
ふらりと崩れ落ちそうになる銀時を支えてやると、とろんとした目が土方を捉えた。
「……土方くん」
「なんだ」
「君は、かっこいいねえ」
「は……」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
何故、銀時の頭が俺の肩に乗っている。
こんな場所で、何故俺は真っ昼間から男に抱きつかれているんだ。
なんだ。
今日は男に抱きつかれる相でも出ているのか。
「……とーしろー」
急に耳元で名前を囁かれて、土方はびくりと体を震わせた。
「なんだよ、気持ち悪ィな」
「気持ち悪いとか、言うなって……」
銀時の腕に力がこもる。
まずいことに、このベンチは片隅にあるため人があまり通らなかった。
「オイ、悪ふざけはよせ」
土方は銀時を押し退けようとしたが、その力が思いの外強く、離れてくれない。
「ねえ、おんなじドSなら俺でもいーじゃん」
「なんの話だ」
「とぼけんなって。沖田くんだよー、沖田くん」
「総悟がどうした」
「だーかーら、そういう関係なんでしょー? こんな真っ昼間から仕事サボってデートなんて……」
ようやく理解した。
要するに、土方と総悟がデキていると言いたいわけだ。
「んなわけねーだろ、なんで総悟なんかと……」
「悪かったですねィ、俺なんかで」
ぼたぼたと銀時の頭上に液体が降り注ぐ。
ついでに土方もとばっちりを喰らった。
「ーー総悟。遅かったじゃねーか」
土方は声を掛けたが、総悟は応えない。
まずいと思ったが、総悟の表情は逆光で見えなかった。
「旦那」
総悟が銀時の首根っこを掴む。
銀時は振り向く間もなく、物凄い勢いで引き剥がされた。
「なにしてんやがんでィ、俺の土方さんに」
……おや?
今、なんて?
「土方さんに抱き付いていいのは、俺だけでさァ」
……ちょっと待て。
「総悟、何言って……」
「うるせーな。黙ってろ鈍感」
「はァ!?」
「……だって土方さん、気付かねーもん。あんなにわかりやすくしてやってんのに」
「待て総悟、どういう……」
「だから、」
「沖田くんは君のことが好きなんだよ、土方くん」
首根っこを掴まれたままの銀時が口を挟む。
総悟は舌打ちをして、軽く銀時を蹴った。
「何しやがんでィ! 俺が言おうと思ったのに!」
「痛い! 痛いって、沖田くん!」
「総悟、離してやれ」
土方が言うと、総悟は一瞬哀しげな顔をして銀時を解放した。
「もう、ドSだなァ沖田くんは……」
「……るせ」
土方は総悟の顔を見た。
総悟は今までに見たことがないような弱々しい顔で笑う。
「……ま、そういうわけでさァ」
「総悟……」
土方が口を開きかけた時だった。
向こうの方から、実に良く目立つ真っ赤なチャイナ服が走って来る。
後ろから、メガネも。
「銀ちゃん! ぎーんちゃーん!」
「あ、かぐら」
「何してるアルか。とっとと帰るネ、今日のご飯当番はお前ヨ」
「えー、そうだっけー?」
「銀さん、早く帰りましょう」
「めがねー」
「……だからなんです」
一気に騒々しくなり、土方と総悟は呆気にとられてぽかんと口をあける。
そしてあれよあれよという間に、銀時は二人に引き摺られて行った。
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