夏「蝉の時雨とサイダー瓶」
<一>
今日の最高気温は三十度。
温暖化は着々と進んでいるのに、三十三度だの三十四度だのが続いているなかに零があると、やはり今日は涼しいのかと油断してしまう。
実際、三十度あれば立派な真夏日であり、もちろん充分限界気味な暑さなのだが、毎日ニュースで猛暑猛暑と騒がれていれば感覚だっておかしくなるだろう。
ただ、雛見町は山側というのもあってか、猛暑日といわれる三十五度を超えることは滅多にない。
せいぜい三十四度止まりなのだ。
暑さに弱い夏乃にとってはありがたかった。
もっとも、夏乃は寒さにも弱いが。
「ところで夏乃ちゃん、あの男の子は?」
暑苦しい……恰幅のいい駄菓子屋の店主は、いつも変な色に変な模様のシャツを来ていた。
夏乃は「おじさん」と呼ぶが、大抵近所の子どもたちは、親しみを込めて「カラさん」と呼んでいる。
多分ずっと昔からそう呼ばれていて、由来はわからなかった。
店の看板には錆びた文字で「だがしや」と書いてあるだけで、誰もカラさんの本名は知らない。
「従兄弟だって。初めて会ったけど」
というか、従兄弟がいることも知らなかった。
二日前、急に言われたのだ。
明日、従兄弟が来るから、と。
「ずっと居るのかい?」
「ううん。二週間だけ……おじさん、サイダー渡してほしいんだけど」
「ああ、すまんすまん。暑い中待たせてごめんね。毎度あり」
「私はいいけど、あの……が外で待ってるから」
夏乃は恭一をどう呼べばいいかわからず、ごにょごにょと誤魔化した。
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