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夏「蝉の時雨とサイダー瓶」
<四>

そして話は冒頭に戻る。

夏乃と恭一は、そこはかとなく昭和の香りのする時代遅れな駄菓子屋の店先で、色褪せたベンチに腰かけていた。

夏乃はコーラとサイダーを一本ずつ購入して恭一に差し出した。

「どっちがいい?」

「……………………コーラ」

いやに長い沈黙のあとに、恭一は茶色い瓶と栓抜きを手に取る。

「あ、駄目だよ。王冠、歪んじゃう」

「……王冠なんか、歪むもんじゃねえの?」

「貸して」

夏乃は慣れた手つきで栓抜きを操り、少し開けてはずらし、少し開けてはずらして蓋を開けた。

多少歪みはしたものの、王冠はぐにゃりと曲がってはいない。

夏乃はそれを持参した巾着に放り込むと、自分もサイダーの栓を開けた。

二人して瓶を傾けていると、当然無言になる。夏乃は気まずさに耐え切れず、恭一の方を横目で盗み見た。

今は真っ直ぐ前を見ている恭一の瞳が、夏乃はどうも苦手だった。

まるで観察されているような、見透かされているような、心理カウンセラーといるような居心地の悪さを感じさせる瞳。

ただでさえ人といるのは苦手なのに、そんな目をされたら尚更だった。

けれど、それと同時に羨ましくもあった。
色のある瞳。鋭い色を持った恭一の瞳。他人とは少し違う、恭一の個性。

自分には色が無い、と夏乃は自覚していた。
単に見た目の色素が薄いだけではなくて、夏乃がそこにいることで付く色、存在感のようなものが皆無なのだ。

自分の主張も、持論も、信念も、何も持っていない。
きっと、見ず知らずの人に自分の印象を聞いても「普通だった」としか言われないだろう。

――そうだ、サイダーに似ている。
ただの炭酸水にほんの少し甘味が付いただけの、無色透明なサイダーは、色の無い自分に似ていた。





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あきゅろす。
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