夏「蝉の時雨とサイダー瓶」
はじまり。
その町は、三段きりの階段だった。
雛見と名の付いた広大な階段の上では、経済状況の異なる人々がそれぞれの段に分かれ、
互いに適度に無関心なまま、適度に関わり合って暮らしていた。
夏乃が住んでいたのは一番下の段と真ん中の段の境目あたりで、
国道を一本外れた場所にある素朴な一軒家の庭には、父がこさえた小さな家庭菜園があった。
二段目の雛見中町は線路と川に挟まれていて、線路を渡った先の一段上がったエリアは雛見台、川を渡った先のエリアは雛見町雛見という地名だった。
夏乃の八回目の夏休み、結城家に家族が一人増えた。
ただし、二週間限定で。
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