小説6 実験 俺は今、かいがいしいゴブリン達に絶賛尽くされ中です。 俺が命令すると大抵のことはできる、あるいはできなくとも必死で応じようとしてくれるらしい。 喉が渇いたので試しに「1階のホーンラビットを倒して水を取ってこい」と言ったら本当にとってきた。 しかもそいつを見たらLv3がLv4になっていた。 しかも何が楽しいのかわからないが、こいつらは俺を見たりそばにいるだけで嬉しいらしい。 表情はあまり変わらないのだが仕草や目線で恐れ敬ったり、時にはうっとりとこっちを見ていたりする(まぁそういう奴と目が合うと途端に慌てて頭を下げながらどこかへ行ってしまうが) 俺が一体に何か命令しようものなら、他の奴らは心底羨ましそうにそいつを見ていたりする。 だが一番驚いたのは、どうやら俺はゴブリンを大量生産できるらしい、ということだった。 意識を取り戻して混乱からも多少立ち直ったころ、右手の平に綺麗な模様のようなものがあるのに気付いたのだ。 なんだこれと思ってこすってみたら、なんとそれから小さな白い靄が出てきて、ビックリすることにその靄が1体のゴブリンになったのである。 え、これ手をこするたびに毎回ゴブリン出てくるのかな?手洗う時どうしよう…などと思いながら実験したところ、それ以降は「出てこい」と念じながらじゃないと出てこなかった。 最弱ゴブリンをいくら従えれたって意味ないじゃないかと最初は落ち込んだが「数の暴力は個々に勝る」とも言うし、使い方次第でどうにかなるかもしれないと思い直した。 個々というのはもちろん3階の例のワニである。 このまま2階でゴブリンどもと仲良く一生過ごすなんて嫌すぎる。 上に何かあるかは分からないが、モンスターのドロップ品が多少なりとも良くなるのは確実だろう。 俺は、どうにか上へ行くために奮闘し始めた。 まず、戦略は単純明快。 数で押せ押せ作戦である。え?そんなの作戦じゃない?気にしちゃいけない。単純でも効果は絶大だ。 とりあえず100体くらいゴブリンを生産して、1階で修業させることにした。 すると《経験値取得量3倍UP》がついているおかげか、3日で平均Lv12くらいまで上がった。 だが、さすが最弱ゴブリン族。あんなふわふわホーンラビット相手でも最初はけっこう怪我を負ったようだ。 動きが鈍いので、ホーンラビットの頭についてる角で下から一突きを食らうらしい。 そういった奴らはみんな俺の所に連れてこさせた。 別に怪我で力尽きて消えてしまってもまた作れば良いし、消える時にパンなどもドロップしていくので食料と等価交換と思えば安いものだ。 だが今回は、新しく覚えた《キュア》の実験台になってもらった。 そう、上に行くための準備として、まずは能力の把握である。 しかも回復魔法はこれから生き残れるかどうかの重要な生命線だ。どの程度の効果があるのかしっかり調べておいた方が良いだろう。 「え〜と、確か効果はHPを小回復する、だったよな。これ《キュア》って言うだけでいいのかな?」 怪我して横たわっているゴブリンの横に座って手をかざしながら、ブツブツ独り言を言っていたのだが、《キュア》と言った瞬間何か体から抜けていく感じがした。 かざした手のひらに淡い光が集まりすぐに消える。 そうしてゴブリンの方を見てみると、ホーンラビットの角で切れていた腹の傷はふさがっており、治りかけのような状態になっていた。 HP小回復なので、傷が完全に治るとまではいかないようだ。 あと、《キュア》を使う前には感じなかった倦怠感を若干感じた。 先ほど体から何か抜けていく感じがしたが、魔法を使うのにMPが必要だというのは一般的な世の定説である。 もしかしたらここでは違うかもしれないが、MPと言った方が俺的にわかりやすいのでまぁいいだろう。 《キュア》を何回か使ってみたが多少疲れるだけで、まだまだ余裕はありそうだった。 次にもう一つの方のスキル《グラトニー(スキルの暴食)》だが、これは一人では実験できないので、一階のモンスターで試してみることにした。 確か、前観察眼で見た時ホーンラビットが何かスキルを持っていた気がする。 「とりゃ!」 手早くホーンラビットを木の棒で倒して、消える前に《グラトニー》と言ってみる。 すかさず自分を見ると…おぉスキルが増えてる! 【スキル】《観察眼3》《キュア》《グラトニー》《俊敏1》 となっていた。 倒した相手なら、どんなスキルでも吸収できるのだろうか?だとしたらすごいことである。 どこまで強くなれるだろうかと少し楽しみになった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |