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小説4
光金の午後

――ガッツ鷹の団入隊一年目のある日の午後――


「おいグリフィス。なんか落ちたぞ」
野営中のテントの間で、ガッツが前を歩いていたグリフィスに声をかける。
それは何やら書かれた紙の小さい束だった。これから次の戦場を話し合う集いがあるため、それに必要なものなのかもしれない。

「ん?あぁ、すまない」
「ほらよ」
小さく屈(かが)んでそれをつまみ上げる。
「なぁガッツ」
「あ?」
チュッ
名を呼ばれ、屈んだまま顔を上げた先には、子供のように楽しそうなグリフィスが、ニヤリと口角を上げながらすぐ間近で笑っていた。
「……………」
何が起こったのか分からずしばし唖然とする。
しかし、額に残った柔らかい感触が熱を持って徐々にそこからカァ、っと身体全体に広がっていった。
「くくっ…お前、顔真っ赤だぞ」
「…っ……っ!」
そこからはガッツの、言葉にならない罵詈雑言と、グリフィスの高らかな笑い声しか聞き取れないほどの騒がしいドンチャン騒ぎだ。


あいつが拾うの狙って物落としたなグリフィスの奴…とジュドーが呆れたようにため息を吐くが声には出さない。

話し合いへ集うために、所要なメンバーは周囲へ集まってきていたため、ジュドーもこの一部始終をしっかり見聞きしていた。
いつものことだが毎回毎回、手をかえ品をかえ、ガッツをガキのようにからかうグリフィスを見ながらジュドーは苦笑いする。

斜め下では、口と目を開け唖然としたリッケルトが二人を凝視していた。
他にも初めてそれを見た平隊員が絶句している。

ガッツとグリフィスのこのやり取りに何度か遭遇したことがあるのだろう隊員は、目を白黒させながらもなんとか口を噤(つぐ)んでいるが、グリフィスがあんな無邪気に笑って他人にちょっかいを出すのはガッツだけだ、無理もないだろう。

「ねぇ…グリフィスってガッツのこと…」
言い終わる前に、スパン!といい音を立ててジュドーによって頭を叩かれた。

「それ以上は言うなよリッケルト。あれはグリフィスがガッツで遊んでるだけさ…そういうことにしとくんだ」
何か悟りを開いたような声音でジュドーがリッケルトに言い聞かせた。ピピンもいつも以上に重々しく頷いている。

その横でコルカスは何やらワァワァと一人騒いでいた。
「あぁ゛!?グリフィスのやつ何やってんだ!」
「………」
こいつもガッツのことかなり意識してるからなぁ。本人は無自覚だが…とジュドーはまたげんなりした目で横を見やった。
ガッツに突っかかるのも、奴の気を引きたいからだ。見ていて丸分かりだが本人が自覚していないから手に負えない。
だが、いつものように余計なことは口に出さないのがジュドーの信条だった。

「…………」
そんな中、これまた複雑な顔をしている彼女に視線を投げる。
怒るに怒りきれず、かといって嫉妬をしていない訳ではないが呆れもしている、何とも言えない…そんな微妙な表情で腕を組んで、キャスカはまだ騒いでいる二人を見やっていた。
しかし、ガッツが怒って最終的に剣で水樽を割り出すころになると、結局呆れの方が勝(まさ)ったようで二人の方に闊歩(かっぽ)していった。
ガッツに鉄拳を与えた後、今は腕を組んでグリフィスとガッツに懇々(こんこん)と何やら説教をしている。

ガッツはむくれてそっぽを向いているし、グリフィスはキャスカに謝りながらもどこか楽しそうだった。

コルカスはまだ一人で騒いでいるし、ピピンは目を剥いたままのリッケルトの頭を優しく撫でている。

鷹の団の、日の温かい賑やかないつもの午後の喧騒に、ジュドーは楽しげに小さく笑ったのだった。




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