小説4 白鷹の娼団 数々の戦場や城に忽然とあらわれ、一夜にしてその場の将を殺していく、謎の集団があると、昔からまことしやかに傭兵の間で言い伝えられてきた。 美姫のように麗しく、名のある武将のように剣を使い、闇の中に紛れ、影のように姿を消すという。 男とも女とも言われるが、誰も本性はわからない。 その名を『白鷹』 俺たちは自分たちを 『白鷹の娼団』 と呼んでいる。 本業は裏で暗殺を生業(ナリワイ)にする娼婦の集まりだった。 ガッツはその娼団で男娼として標的の寝床にもぐり込み、油断したところを刺殺する娼団一の刺客だ。 知る者ぞ知る密かな方法でしか、依頼は受けないが、一度引き受けたら確実に仕事は完遂される。 今回も刺客の依頼を受け、この城の主のもとへ乗り込んできたのだ。 『光鷹の城』の城主であるこの男のもとへ―― しかし不覚にも捕らえられ、身体は拘束されたまま動かない。 しかも、いつも通り事前に逃げる手はずだった娼団の仲間まで捕らえられたという… 八方塞がりだった。 目の前の男は、今だ驚きと、何故か懐古の眼差しのような目をして何かを考えていた。 「っ…あいつらは逃がせ。俺だけいれば用はねぇだろっそれが口を割る条件だ」 憎々しげにそう吐き捨てると、目の前の男は嬉しげに笑った。 「やっと喋ったな。お前の声が聞きたかった」 グリフィスは手を伸ばし、ガッツの顔を両手で挟んで自分と目を合わさせた。 「…いいだろう」 間近に迫るグリフィスの金の目が、視界いっぱいに広がる。 吸い込まれるように深く、深淵な金の瞳が光り、ガッツは目を奪われた。 「俺はお前が欲しい…お前の全てが」 「何を…言ってッ」 「俺は欲しい物は全て手に入れてきた…あの娼団は解放する。そのかわりお前の全ては…俺のものだ」 グリフィスは、深く重い声に静かな凄みを滲ませ、睦言のようにガッツへ囁いた。 [*前へ][次へ#] |