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小説4
白鷹の娼団

荘厳で白く輝くように美しい城が、夜空に高々とそびえ立つ。

美麗な部屋や優雅な回廊も、今はその静かな夜闇に包まれている。
しかしその闇にまぎれ、どの部屋よりもひときわ美しいある部屋に、快楽と苦痛にまみれた吐息が響いていた。

「言う気になったか?私の命を狙った男の名を」
白い絹糸のような髪をなびかせ、十国一の匠が作り上げたような相貌で、男が楽しげに問いかけた。
それを聞いて、鎖につながれ、苦しげに俯いていた男が怒りと屈辱に濡れた目でこちらを睨み上げる。
それは、千の闘士すら気負けするであろうほどに強く、爛々と光っていた。

鎖で上から長時間つるし上げ、拷問用の秘薬で息も絶え絶えになるほど酷く弱らせているはずだ。
それなのに、いつこちらを噛み殺しに来るか分からない獰猛で屈強な様は、一匹の獣そのものだった。

その獣の性を内に隠し暗殺者として、この城の主である自分のもとまでやってきたのだ。
美しく屈強なこの男は、その瞳の力と同等の力量をもち、相対したのが己でなければ、この刺客は簡単に標的をしとめていただろ。
最上の剣士にすら勝る使い手だった。

しかし、その身体を覆う布は透けるような薄布と、身体を飾る煌びやかな飾輪のみだ。
まるで後宮の奥にしどけなくに侍(ハベル)る淫女のような格好である。

そう、この男は国をまたいで身を売る娼団の高級男娼として、この城にきたのだ。

「美しいな…よく肌が紅く染まる…さすがは男娼といったところか」

脆弱でない肉がしっかりと全身に付いているのに、それは流れるようにしなやかで美しかった。
艶やかに隆起した美肉の上を薄布が這い、波打つのが酷くなまめかしい。
薬で紅く染まり、苦しげに吐息を吐く様がとても淫卑だった。
娼団を城に招き入れ、もよおした宴の席にこの男が現れた時、誰もが息を飲んだほどだ。
この男より容姿の綺麗な女は他にももちろんいるだろう。
しかし、この男ほど妖艶で傲慢で危険な匂いのする神秘的な男はどこを探してもいなかった。
何より、その何者にも屈しない様子が、男達の征服欲を息を飲むほどかき立てた。

誰もが欲しがるであろう男は、濃厚な艶をまとって身を売る男娼だ。
なのに、この近隣国一の使い手である自分とほぼ同等の剣を使う強者でもある。
これほどの使い手なら、男娼を装って刺客などせず、剣士として生きられるだろうに、謎である。

この強く麗しい、何を秘めているか分からない美獣に、グリフィスは強く関心を持っていた。

「お前が口を割らなければ捕らえた他の娼婦達に、手荒な方法で聞くことになるがいいのか?」
それまで、どんなに弱らせようと石のように何もしゃべろうとしなかった男が、サッと顔色をかえ、こちらを睨みつけてきた。

「ッ!…」
そのせっぱ詰まった様子には、敵意だけではなく明らかに焦燥や危惧が含まれていた。

負傷者は多少でたが、誰も死んでいない、安心しろ、と返すと安堵したようだがいっそう男の敵愾心が強まったようだった。

「捕まえる際にずいぶん手こずったようだ。娼婦の集まりとは思えないほどの手練れがそろっていた。首領はキャスカといったな」

娼婦達を率いて軍隊並に統率のとれたみごとな陽動と戦闘をやってのけたぞ、とグリフィスは笑った。
目には驚きと称賛をたたえ、新しいおもちゃを得た子供のような顔で楽しそうに笑っている。

「戦闘に慣れた娼婦達といい、お前といい…ただの娼団じゃないな……もしかしたら、鷹…白鷹か?お前達」

思い当たった結論に新たな驚きを滲ませ問うと、鎖につながれた男は悔しげに唇を噛んで歯がみした。




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