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小説2
黒翼塔の王冠

あらわれた魔物は、暗闇の中にいてもその相貌はすこぶる美しかった。

男とも女とも言えない中世的な柔らかい顔立ちだ。
女よりは大きいが、男よりも体つきも細い。
何より、薄布に隠された豊満な胸元が、女性の滑らかなおうとつを作り上げていた。
腰まである淡い金髪をなびかせ、楽しげに紅い唇を上に引きあげながらこちらへ近づいてくる。

「ダイアナ・エレモンドよ。魔軍の指揮官をしているわ、初めましてジェム様」

目の前にあらわれた魔物は妖艶な微笑を浮かべ、ジェムの頬に口付けた。

「あぁ…いい匂いね。全身から甘い匂いがするわ、癖になる。こんなんじゃこの先魔物がよってたかって群がるわよ」
血はどんな味がするのかしら…と楽しそうに笑っているダイアナへ、フランは苦笑いしながら釘をさした。

「ダイアナさん、条件はわかってますよね?いくらダイアナさんが魔物のトップだとしても、ジェム様に害をなしたらただじゃすみませんよ」
純粋な実力でいえば、ルーファ以外にダイアナに敵う者はいないのだ。

「言われなくてもわかってるわよ〜この場にいらっしゃらなくてもルーファス様はジェム様から片時も目を離さずこちらを見てるでしょうからね」

愛だわ〜とはしゃぎながら、ダイアナはジェムの口輪を外していった。
そして、ジェムが乗せられている大きな円台に片膝をのりあげる。
今まで気づかなかったが、太い血管のようなおうとつのある円台の上に、ジェムは横たわっていた。
ダイアナは上からジェムの顔を楽しそうに見下ろしてくる。
人間の女よりは長身だが、ダイアナの華奢な体つきは、当然大柄な自分より細く柔らかい。
まるっきり、女のようである。

なのに、ダイアナがまとう雰囲気がガラリと変わっていくのがわかった。

胸をいやらしくなでながら笑う口元は、脆弱な獲物を食らう優越感に満ちている。
この魔物は、フランと楽しそうに話しながらも、ジェムの前に現れた当初からジェムを舐めるように見ていた。

時折目を細める仕草が、まるで蛇のようだ。
まばたきをしようにも、目の前の生き物から目が離せない。
ジェムは、ジットリと汗をにじませ、息を飲んだ。

フランもそうだった。
しかし、あの小さな魔物とは比べられないほど、目に危険な光がギラギラと宿っている。

「さぁおしゃべりはお終いよ。私とゆっくり楽しみましょうね」

「―ッ!」
その細腕のどこにそんな力があるのかわからないが、また易々と身体を抱えられ、うつむけにされた。
何か言おうにも、身体のしびれが治らず、口も満足に動かすことができなかった。

円台に隆起していた不気味な血管が、まるで生きているかのように浮き上がり、メリメリと音を立ててジェムの身体に巻き付いてくる。

満足に動かない四肢を、さらに拘束された。



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