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小説2
黒翼塔の王冠

一人取り残され、じっとしているつもりのなかったジェムは、素早く辺りに使えそうなものがないか探した。
こんな場所には一時すらいたくなかった。どうにかこの場所から逃げられないかと必死に模索する。
しかし、部屋にはジェムがもともと身につけていた防具も、ましてや服すら見あたらない。
身につけるものもなく、武器もない、ここがどこかもわからない。シーツを一枚はおり、ジェムはしばし途方に暮れてしまう。
(どうにかしなければ…)
しかし、ジェムの逃亡を察したようなタイミングで、扉が叩かれた。
「ジェム様。ジェム・D・ブラック様」
子供のような高く美しい声が聞こえ、ジェムは身構える。ルーファが言っていた世話係だろうか?
ベッドの端に寄り、「失礼します」と部屋に入ってきた人物を伺う。
その人物はこの広い部屋で、ジェムがどこにいるのか見えなくともわかるような足取りで、ジェムの前までやってきた。
「初めまして。僕はフラン・リーフと言います。今日からお世話をさせていただきますので、お見知り置きください」
そう言って、ニッコリと天使のような笑顔で笑ったのは、身長がジェムのお腹のあたりまでしかない小さな少年だった。
髪はフワフワで美しい金に目は榛(ハシバミ)色。白のシャツに黒のベストを着て、胸にはフンワリした大きな紅いリボンが揺れていた。
一つだけ人間と違うところは、頭の上に長く白い獣の耳がついているということだ。
(こいつも魔物なんだろうか…)
「ジェム様、お腹がすいているようでしたら何か持ってきましょうか?それとも湯浴みをなさいますか?」
「…腹は減っていない。それより何か着るものを持ってきてくれ、落ち着かない」
服が無ければ、満足に動くこともできない。
相手は魔物かもしれないが、子供と大人ほどの体格差があるのだ、どうにかすればこの世話係は出し抜けるだろう。
しかし、その願いは叶わなかった。
「そうですか。困りましたね…今日から数日かけて行われるジェム様の儀は、衣服など必要ないので、ご用意しそこねておりました」
なるべく早く用意しますね、とニッコリ笑うフランに、ジェムの中で不安が高まる。
自分はこのあと何をされるというのだろう…
「…その儀式とはいったいなんなんだ」
布さわりのいい良い服を選ばないと、と何やら考えているフランへジェムは苛立たしげに問いただした。
「あぁ…!僕としたことが、説明がまだでしたね。ずいぶん古くから伝わる昔ながらの魔の儀なのですよ」

『百の魔の血を飲み干し、百の魔と交わりて、その者、魔の王の伴侶にたる体を得ん』

別名
『転魔の儀』
とも呼ばれている。

これはただ、魔王の子供を宿す体になるだけでなく、文字道理「転魔」の儀式でもあるのだ。
しかし、今の所それはジェムには伏せられた。
今はまだ告げる時ではないとルーファに他言を禁じられたのだ。


だが、ジェムが受けるショックはやはり並大抵のものでは無かったらしい。
「血を飲み…交わるだと…!?」
ジェムは顔を真っ青にし、愕然と目を見開いた。みるみる内に顔中に嫌悪と驚愕が広がっていく。事の異端さ、身の毛もよだつ気味の悪さに吐き気がおさまらない。
ジェムは口元をおさえ、瞳を揺らめかせながら拳を額にすり寄せた。

「ご安心ください。ルーファス様により、性器の挿入による性交渉は固く禁じられています。他にもいくつか細かい禁事項がありますし、もちろん魔物たちとの交わりには監視役として必ず僕が傍におりますので」

「だ、誰がそんな魔物のおぞましい儀式など受けるものか!!俺の剣を返せ、お前達悪魔など皆殺しにしてやる!!」
ジェムは、もとは数万の兵を束ねる最高の闘士だった。しかし、仲間を殺され、愛した女性を壊されて、復讐を果たそうとルーファのもとへ長い旅路を経てやってきた。
その旅路の間に、幾度も魔物と遭遇したが、そのつど魔物の群を大剣で斬り殺しては前へ進んできたのだ。
ルーファには敵わなくとも、低魔や中級の魔族ならジェムは刀一本で楽に消滅させる事ができた。


「確かに、あなたは人間の中では希にみる強さの狂戦士だ。人間が100人束になっても、中級すら普通倒すことはできませんからね。僕たちの間でもあなたは有名でしたよ」
剣を持たせたら、とてもてこずるでしょうね…

「でも、今は服も剣も取り上げられ、非常に無防備だ。身を隠すように震えるあなたなど…僕には怯えた無力なメスにしか映りませんよ」

この時まで、フランは顔を合わせた当初から、とても礼儀正しく天使のように笑い、人間の子供と何ら代わりのないジェムにとって無害な存在だった。
しかし、それはほんの少し雰囲気を変えただけで脆く崩れるような破片の一部だったのだ。

今の彼は、幼い容姿と顔に似つかわしくない、傲慢な雄の匂いを漂わせ、スッと細めた目で、こちらに狙いをすましていた。
口角を小さく笑ませたまま、雌を無惨に捕らえ、補食する人外の残虐さを滲ませて、舐めるようにジェムを見ていたのだ。


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今回のお題は「年端もいかない幼い少年にいいように嬲られる30代の闘士」…ですかね。マニアック!
新しい魔物がどんどん出てきます。



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あきゅろす。
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