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小説2
黒翼塔の王冠


あの悪夢の日から、何日たったのかはわからない。

しかし、格子のついた大きな窓から日の光が2,3度漏れていたのは感じた。
心身ともに疲労し、動かない体を、昼も夜も関係なくあの腕が抱き上げ、いつまでも触れてくる。
そのたびに、ことごとく抵抗していたら、部屋に香をたかれた。
その香のせいか、朦朧として意識の曖昧なジェムを、ルーファは貪(むさぼ)り抱き続けた。
困窮し、餓えながら長い年月を生きた獣が、やっと得た唯一の潤いを全身で愛(め)で、貪りしゃぶるように愛される。
それを、どこか体から切り離した意識の外で感じていた。


「……っ」
やっとハッキリした意識が、ある朝の中で目覚めた。
伏せて、真っ白な枕に顔をうずめたまま、視線を彷徨わせる。
香の匂いはもう辺りにしない。
「目覚めたか」
「……!」
ジェムは白いシーツに広がる銀糸の髪を見つけ、激しく体を強ばらせた。
慎重に顔を上げると、希代の高匠が細工したような麗しい相貌がとろけるような笑みを浮かべ、笑っていた。
…ジェムが、例えこの身が地に堕ちようと、必ず八つ裂きにすると誓った男の顔だった。

ジェムはすぐさま身を起こして広いベッドの上で、ルーファから距離をとる。
軋むように辛い体や、頸部の鈍い痛みを感じ、激しく苛立った。

「俺に近づくな!悪魔め…」
怨嗟の言葉を延々と吐き捨ててやりたかった。
少しでも相手を牽制し、この体に染みつく恐怖を剥ぎ取ってしまいたかった。
「…ジェム…震えているじゃないか」

どんなに逃げようと、身をよじっても狭いベッドの上では無力だ。素早くのびたルーファの腕に捕らえられ、その両腕に拘束される。
「ふふ、落ち着くんだ。大丈夫だから」
「……くっ!」
両手を捕られ、後ろから抱きすくめられる。力の限り振り切ろうにも、見た目と異なりその腕はピクリとも動かなかった。
昔からしっていたヤツの腕はこんなものではなかったはずだ。
あきらかなる人外の力に、ジェムは歯を喰い絞めた。


しばらく、抵抗するジェムを楽しそうに抱いていたルーファだが、しだいにジェムの肩へ顔をうずめ、ジェム、ジェムと名を呼びながら…はぁ…、と重いため息をついた。

「ずっとこうしていたいが、そうもいかないな」
ルーファが見せる初めての、喜悦以外の感情に不信が募る。
「俺は魔物を統べる者であり同時に、人間の国を一国治める王だ。だから、人間の王城へ出向かなければならない……本当なら采配など他人に任せ、お前の元にいたいが、お前にも大事な儀式を受けてもらわなければならないからな…」
下手に近くにいると儀を中断しかねない…と漏らすルーファが何を忌とんでいるのかわからない。
しかし、ルーファが何気なく零した『儀式』という言葉にジェムは酷く嫌なものを感じた。

「…俺に何をする気だ」
「言っただろう?ここを造りかえるんだ」
ルーファはジェムの下腹部をゆっくりとなで上げる。その仕草に、ジェムは息を飲み、何度も言われたおぞましい台詞を思い出した。
『俺の子を孕ませてやる』と、何度も囁かれたのだ。

硬直してしまったジェムにかまわず、ルーファはもう一度ジェムの肩口に口付けを落とし、両腕の拘束を解いた。

「俺はこれから少し出かける。お前には世話係をつけるから、詳しい事はその者に聞くといい」
ルーファはそう言うと、薄い上かけをはおり、ジェムを残して部屋を出ていった。

――――――――
この2、3日間の香をたかれて「理性なくしてベロンべロに素直でHなジェム」をいつか書いてみたいです。




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