毒の魔女母・鬼の桃ババァB

 立烏帽子〔たちえぼし〕を被り、縁側から木製の靴を履いて庭に出た貴族が翁に言った。

「近いうちに夢の中で男女が入れ替わる、とりかえばや儀式を行った貴族男性の知人に、男かぐや姫のコトを紹介したいがいいかな?」
「お待ちいたしております……男かぐや姫には日頃から、誰からの寵愛も受けるように教育してありますので」
 貴族が去り、翁が小袋を振って金銭の音色を聞いていると。薄ピンク色の肌襦袢〔はだじゅばん〕をラフに羽織った『男かぐや姫』が、少し疲れた様子で部屋から出てきた。
「おじいさん……ボク、中納言さまにいっぱい寵愛してもらったよ」
「そうか、そうか……また、頼むぞ」
 竹取りの翁は金銭を数えながら、湯飲みに急須で注いだお茶に口をつける。
 突然、翁の手から湯飲みと小袋の中に入っていた小銭が板床に落ちて散らばった。
「おじいさん? どうしたの?」

 男かぐや姫が心配して声をかけた、次の瞬間……バネ仕掛けの玩具のように翁の体は跳ね上がり。
 白目を剥いた竹取りの翁は、奇声を発ってウサギのようにピョンピョン跳ねた。
「ききききぃぃぃぃぃ!!!」
「お、おじいさん!?」
 翁は愛用の竹取りナタを手にすると、家から飛び出して竹を手当たり次第に伐り倒しはじめた。
「きぎぎぃぃぃぃ!!」
 次々と伐り倒されていく、自分の故郷に男かぐや姫は、悲鳴を発する。

「やめてぇ!! おじいさん!! かぐや姫の竹林が無くなっちゃう!!」
 翁はさらに狂ったようにナタを振り回し、光り輝く竹の群集を発見すると一目散に駆け寄って寸断した。
 竹の中から餅が膨らむように全裸の女体が外に出て地面に転がる……新たな『裸かぐや姫』の誕生だった。
 次々と竹から誕生してくる成人女性の、妹かぐや姫に男かぐや姫は頭を抱えて涙目で叫ぶ。
「おじいさん、元にもどってよ!! どうしちゃったの? 妹増やさないでよ」
 その時、家の陰からリンゴをかじりながら、魔女母が現れた。
「ひひひっ……さすが、速効性の狂い毒は良く効くわい……ひひひっ」
 男かぐや姫が魔女母に訊ねる。
「誰? おじいさんが変になったのは、あなたのせい? 前のような優しいけれど、お金には汚いおじいさんにもどして」
「ひひっ……儂が誰でもいいじゃろう、竹取りの翁を元にもどす解毒薬が欲しければ、儂の言うことを聞け」
「わかった何でもするから、竹を伐るのをやめさせて……もう六人くらい、かぐや姫が増えているよ」
「ひひひっ……いいじゃろう。おーい、そのジジィを押さえつけろ」
 魔女母の声を受けて、屋根の上で待機していた……臼〔ウス・餅をつく時に餅米を入れる道具〕の胴体から女の頭と手と腰から下が出ている『臼女』が勢い良く屋根から翁を目掛けて飛び降りてきて、翁を尻で押し潰した。
「むぎゅ……むぎゅ」女の生尻の下で、翁は鳴いた……死んではいない。
 老人を尻に敷いた、魔女母の配下の『臼女』は取り出した化粧ポーチで鏡を見ながら唇にリップを塗ってぼやく。
「だいたい、今時の子供に餅をつく臼なんて言っても、わからないし……臼で餅つく一般家庭なんて少ないし、猿カニ合戦の臼の使い道なんて、屋根の上から落ちてくる以外に活躍の場ないし……そうそう牛のウ○コ、道に落ちていないし」
 魔女母が男かぐや姫に言った。
「儂の言う通りすれば、竹取りの翁は元にもどしてやる……おまえが裏切らずに、女桃太郎を桃の木に行かせないように協力してくれればな……ひひひっ」


 その頃……森の中を進む軍医タコ一行は、分かれ道に差しかかっていた。
 二つに別れた道の矢印道標には片方は『裸白雪と七人の裸鉱夫の家』と、示され。
 もう片方には『裸赤ずきんの知り合いの猟師が住む家』と、示されていた。
 女桃太郎が猟師が住む家の方を指差す。
「こっちの道を使えば森を迷わずに抜けられる」
 歩きはじめた時……一番最後を歩いていた尻目は、白雪姫の居る家へと続く道の、木の枝に裂かれた衣服がポツポツと目印のように引っ掛けてあるのに気づいた。
 衣服が引っ掛けてある方向の道からは、甘いお菓子の匂いが微かに漂ってきていた。
(もしかしたら、この先にお菓子の家が?)
 お腹がグゥーと鳴った尻目が軍医タコに言った。
「すみませんが、ちょっと裸白雪姫のガラスの棺を見たいので、寄り道したいんですが……いいですか? 先に行ってください、すぐに追いつきますから」

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あきゅろす。
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