母親と恋人の創造@ 神罰がくだった隊長タコ

 ヘルメットを被せられ、半分口が開いた状態で大人しくなった紫郎は、なぜか足を開いてお尻を地面にペタンと密着させて座るW字型女性座りをした。
 軍医タコが紫郎に被せたヘルメットのダイヤル調整をしながら呟く。
「このアナザー・エデンでの辛い記憶はすべて脳内から消しておいてあげますからね……わたしも響子に『生命の粘土』を、誕生日プレゼントだと悟らせずに触らせるための計画だったとは言え、強引に響子と波長が合った紫郎を神隠ししたのは悪かったと……内心は思っているのですよ。そのお詫びと言ってはなんですが、人間の脳細胞で使われていない部位を少しだけ活性化してあげます……タコの科学力には到底及びませんが、タイムマシンを発明できる程度の才能は発揮できるでしょう。
活性化が終わったら天狗裸女さんに連れてきた元の場所にもどしてもらいますから」

 軍医タコは、空を見上げる。
『生命の粘土』を採取した時から、怪しくなってきた雲行きがついに。
 頭上で灰色の雲がグルグルと渦を巻きはじめ、稲光が雲の中に走った。
「現れましたね……『生命の粘土』を創造主以外の者が手にした時に、稲妻で神罰を与える存在が……こんなコトもあろうかと」
 軍医タコは、紫郎に運ばせ続けてきた。隊長タコが詰まった、三十センチほどの透明な強化プラスチックの立方体ボックスの蓋を解錠すると、触手足で蹴飛ばして中に詰まっていた隊長タコを外に出した。
 外に転がり出た隊長タコは空気を入れた人形のように膨らみ立つ。
 隊長タコが、触手を伸ばして体をほぐす。
「うぅ〜ん、何か狭い場所に押し込まれて旅行している変な夢を見たな……おっ、軍医元気か」
「はい、おかげさまで」
 軍医タコは、ストレッチ運動をしている隊長タコの頭部に、出発前に書いた油性ペンの文字……額の『神もどき』と後頭部の『創造』が消えていないコトを確認する。

 稲妻が近くの大樹を直撃すると、渦巻く雲の中から男性の声が聞こえてきた。
《誰だがやぁ!! 創造主でも無いのに『生命の粘土』に手を出した愚きゃもんは!!》
 雷鳴に加えて風も吹いてきた。姿の見えない声の主は、軍医タコを空から見ているようだった。
《『生命の粘土』を扱える資格があるのは創造主だけだがやぁ……創造主を真似て人間が人間を創造したら、世界はややこしいコトになるだがやぁ……それを防ぐために中間大神の、わしがいるだがやぁ……おみゃあか? 創造神の真似をして、人類創造を企てている愚きゃもんは? おみゃあ神か?》
 軍医タコは隊長タコの方を触手で指差す。
「神なら、ほらっ、アソコにいますよ」 大神の視線が隊長タコの額に書かれた『神もどき』の文字に注がれる。
《おみゃあが、神?》
「そうだ、わたしは神だ! スゴいだろう……エッヘン」
 隊長タコは腰に手を当てて、自慢しているようなポーズをする。
 大神は隊長タコの額に書かれた『神もどき』の文字に少し呆れた。
《おみゃあには用はないだがゃ、さっさとこの場から消え去るだがや(なんだ、神さまごっこをしているバカか)》

「オレの神っぷりに恐れいったか」
 クルッと大神に背を向けた隊長タコの後頭部に書かれていた『創造』の文字を見た瞬間、大神の態度が一変する。
《『創造神もどき』だと!! 創造神をおちょくっとるだがやぁぁ!! 神罰!!》
 稲妻が隊長タコを直撃する……黒焦げになった隊長タコの体からプスプスと煙が上った。

《スッキリしただがや『生命の粘土』を盗んだのは、コイツということにしておけば、上司の最高神から小言も言われなくて済むだがや》
 軍医タコが缶ビールのプルトップを開けながら、大神に言った。
「神の仕事というのも大変な仕事ですね……まずは一杯どうぞ」
《おっ、おみゅあ気が利くだがや……ちょうど、喉が乾いていたところだがや》
 軍医タコがビールを地面に向けて垂らすと、ビールは地面に落ちる前に吸い上げられるように空に昇っていく。
 しばらく、軍医タコと大神との談話が続き。飲酒で気分を良くした大神の雲がピンク色に染まり、雲の隙間から光りも差してきた。

《ウィッ、ヒック……その上司の最高神というのが面倒なコトは全部。中間神の大神に押しつけてくる奴だがや……家に帰っても妻神と子神から、ぞんざいな扱いを受けて職場でも家庭でも居場所が無いだがや……ゴミ出しは、わしの役目だがや》
「心中お察しいたします……まぁ、もう一杯」
 軍医タコは二缶目のプルトップを開けた。




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あきゅろす。
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