海百合の花咲く頃F

 ダテ眼鏡を外して仕切り直すように咳払いをした凍騎が言った。
「それでは、謎解きをしましょう……単刀直入に言います、今回の怪盗Q2の犯行文予告文から始まった事件の真犯人は……」
 執事を指差す凍騎。
「あなたですね、執事さん……あの犯行予告文は、あなたが書いたモノだ。犯行予告日は後から書き加え、あたかも屋敷に届けられたように見せかけた」
 凍騎の言葉に表情が固まる執事。
「最初からこの事件に『怪盗Q2』なんて存在しなかった……怪盗Q2は、あなたがある目的を果たすために作り出した、架空の人物だった……嵐のあの夜に、現れた『怪盗Q2』の姿を見て一番驚いていたのは……執事さん、あなたでしたね」

 ティティスが凍騎に質問する。
「執事のある目的って『グリーン・キャッツアイ』を奪うコトですか?」
「いや、執事には家宝を盗む気持ちは最初から無い……執事の真の目的はサーコお嬢さまを襲い、その肉体を犯すこと……その目的をカモフラージュするために、架空の怪盗を作り上げ。不自然に思われないように怪盗が緑色の宝玉も狙っているように犯行予告文を作成した」
「なぜ? 執事はそんな面倒なコトを?」
「元々、犯行予告日には何も起こるはずがない……犯行予告日の翌日辺りに、執事さん……あなたはサーコお嬢さまを襲い犯すつもりだったのでしょう。サーコお嬢さまも怪盗に貞操を奪われたと言えば、体裁〔ていさい〕が保てて自分の犯行も隠せると考えた……ただ、あなたのこの強姦計画には。大きな誤算が三つあった」

 凍騎は立てた三本の指を一つづつ、数えながら執事の誤算を指摘する。
「一つ目の誤算は、怪盗Q2の犯行予告文の噂が、館の使用人の口外から予想外に世間に広がってしまったコト……二つ目の誤算は、実際に怪盗Q2が現れてしまったコト……そして三つ目の最大の誤算は」
 凍騎は最後に残った指を自分に向けた。
「犯行予告文の噂を聞きつけた、名探偵が屋敷に助手を連れてやって来たコト……あなたは、名も知られていない三流探偵なら、実在しない怪盗Q2の相手をさせるには丁度いいと考えて屋敷内に、招き入れた……三流どころか、一流の推理探偵だと気づかずに」

 凍騎は小刻みに震えている執事を蔑んだ目で眺めながら、取り出した白衣を羽織る。
「さて、ここまでが人間の犯行謎解き……ここから先は触手の謎解きだ。ティティス、探偵ごっこは終わりだ……裸になれ」



 ティティスの姿がいつもの裸身体に変わる、小太りの執事は怯える目でティティスと凍騎と、蠢く緑色触手の中で股間のキノコをつかんだポーズで緑色化している、サーコお嬢さまを交互に見て言った。

「おまえたちはいったい……触手? いったい何が起こっているんだ?」
 執事の問いかけには答えず、凍騎は緑触手が蠢く洞窟広場の向かい側を見ていた。
 洞窟の向かい側の狭い足場の壁際に、いつの間にか人影が立っていた、シルクハットにマントと黄金仮面……『怪盗Q2』だった。
 執事が怯えた声で呟く。
「怪盗Q2……」
 凍騎が向かい側に立っている怪人物に話しかける。
「間に合いませんでした、触手王さま……隠れ巣窟を発見する前に、種づけされてしまいました。この勝負……植物系触手の勝ちです」
 怪盗Q2が仮面を外す、その下から現れたのは惚けた表情の、ユズキの顔が現れる。
 ユズキの片方の耳の穴から、黄金色の触手王が頭を覗かせる。
《そのようだな》
「申しワケありません、わざわざ怪盗役をお願いしたのに、このような結果になってしまい」
《気にするな……怪盗を出現させたのは、よりゲームを面白くさせるために凍騎が考えた演出だろう。演じていて楽しかったぞ》

 黄金触手王の分身は、緑色触手に向かって話しかけた。
《緑色触手王……約束通り、この星の全域触侵をおまえたち『植物系触手』に任せる……我ら『生物系触手』は、この星の触侵には介入しない》
 緑色触手の中でも、目立つ大きさの触手が鎌首を持ち上げた。
《感謝する黄金触手王よ……植物系触手を代表して礼を言う》
《おまえが提案した今回のゲーム、楽しめた……じっくりと時間をかけて、この星全体を植物系触手で覆いつくせ》

[前の穴へ][後の穴へ]

7/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!