地の章@

 凍騎は奥の間を、両側に黒装束の忍び群が並ぶ室内を進む。畳の上に意図して置かれた荒縄の束を拾い上げた凍騎は、お縄に向かって訊ねた。
「これ……君の縄?
 忍びたちの間に、不思議と緊張感が崩れ、間の抜けた笑顔の雰囲気が広がる。
 クスッと口元に手をあてがって笑った、お縄が立ち上がり和服の帯を解いて裸になった。
 お縄の裸体には、赤い緊縛縄が縛られ食い込んでいた。
 お縄が言った。
「そうじゃ、わしの縄じゃ……判定人としての眼力は確かなようじゃ、試して悪かった」
 凍騎とティティスは、木乃伊化した前忍び将軍を目前に正座する。
 カラクリ触手が凍騎に淫法勝負の勝敗で、次期忍び将軍を決めるので、その判定人をしてほしいと告げた。
 カラクリ触手から直接話しを聞いた凍騎は、しばらく腕組みをして思案した後、おもむろに口を開く。

「忍者同士での淫法勝負では、どちらの忍びが勝っても遺恨が残るでしょう……ここは、遺恨の残らない方法を選択するのが得策ではないかと」
《凍騎どのには、何か良い考えがおありか?》

「入手した忍法惑星の情報の中に、アワノ国〔地球では千葉県房総半島南部あたり〕の小国を治める、里見家にライナ姫という三国一の美女と噂される姫がいると聞き及びました、その姫を差し出させ淫法で辱しめて勝敗を決めるというのはどうでしょうか」
《なんと、里見家には『八忍剣士』を名乗る里見を守る強堅の八忍がいると聞くが……素直に姫を差し出すであろうか?》
「公儀の命令にそむいて姫を差し出さなければ、里見の小国を取り潰すと脅せば里見の城主もしかたなく姫を差し出すでしょう
里見家が抵抗を示すようでしたら、陸からシナノ国の『真田十勇忍士』と、カイ国の『武田二十四忍将』……海からは瀬戸内の『村上忍水軍』で攻めれば簡単に陥落するでしょう。他にもこの星には強大な幕府に従う集団は多数いるでしょうからな」
《おもしろい嗜好でござる、凍騎どのの提案を採用するでござる》
 凍騎の提案を黙って聞いていた唐人斎は、背筋が寒くなるのを感じた。
(この男……忍びよりも危険な男だ……下手に逆らったら、どんな目に会わされるかわからん)

 凍騎は戸板の上で喘ぎ続けている、女忍者に目を向けると。荒縄を体に縛り付けた、お縄に訊ねる。
「この者はどうしたのですか?」
「淫法勝負の忍びとして選出したが、惚けてしまい使い物にならん……ある者の卑怯な策略のせいで」
 お縄は唐人斎をジロッと睨みつけた。
 唐人斎の顔色が蒼白になる。
 凍騎がカラクリ触手に言った。
「どうでしょうか、使えなくなった『妖賀』のクノイチの代りに、わたしの助手のティティスを加えてはもらえませんか……忍びではありませんが、それ相当の淫らな勝負はするかと」

 凍騎の言葉に慌てる唐人斎。
「お待ちください! 忍びの勝負に忍び以外の者を参戦させるなど、聞いたこともありません」
 荒縄縛りされた、お縄が唐人斎を見下したように鼻で軽く笑う。
「ふん、臆したか……妖賀は凍騎どのの提案を受け入れる。正々堂々とした忍び勝負をしたいのでな」

 唐人斎は内心。(なにが、正々堂々とした忍びの勝負だ! 得体の知れない判定人と小娘を引き込んで、有利に事を進ませる魂胆〔こんたん〕が見え見えだ……腹黒い妖賀のババアめ)と、呟く。

 唐人斎自身、淫法勝負を魔賀が有利な展開になるように画策して。妖賀が選出したクノイチを一名、欲情地獄に堕とした事を忘れている。

 唐人斎は、訝る〔いぶかる〕目でティティスを眺める。そんな唐人斎の視線と内心を読み取った凍騎が傍らで正座しているティティスに言った。
ティティス、裸になれ……触手を見せてやれ」
 スクッと立ち上がったティティスの和装が透けるように消えて、ティティスは全裸になった。



 ティティスが裸体からウネウネと半透明なゼリー状の触手を突出させると、両側に控えていた魔賀と妖賀の忍びたちが一斉に立ち上がり。
「化け物!!」
 と、叫んで鞘から抜き放った忍者刀でティティスの体を串刺しにした。

 全身を貫かれたティティスは、少し困惑した顔で頭を掻きながら。
「いったい、なんなのよ……この星は」
 と、呟いた。



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あきゅろす。
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