地球触侵B

 裸で立つ女は凍騎を見つめたまま、何も喋らない。
 突如、凍騎とライナがいる台以外の床や壁や天井がグニュグニュと蠢きはじめ、触手の部屋に変貌する。
 まだ意識がもどらないライナの裸体と、上体を起こした凍騎の裸体にも台に上ってきた触手が粘液を染み出して這い回る。
 触手に裸体を弄ばれても凍騎は動じずに触手たちを観察していた。
 やがて、触手壁が楕円形に開くと凸面をしたモニターが出現して、画面いっぱいに蠢く黄金色の触手が現れた。
 金色に輝く触手が凍騎に向かって言った。
《まさか、地球におまえのような思考の人間がいたとは……おまえには我々、触手とどこか通じる心がある》

 凍騎とライナの裸体を這っていた触手が台から去る。
 凍騎が黄金色の触手に対して敬意を示す。
「あなた様の細胞がオレの体の自然治癒力を高め、蘇生と再生をさせたのですね……感謝します。よろしければ、お名前を」
『触手王』だ、おまえの名前は?》
「凍騎……鬼頭 凍騎です。触手王さま、オレとライナを蘇生させた目的は、繁殖実験をするためですか? 家畜タグのようなモノを体に埋め込みましたね……ご要望なら、ライナとの繁殖行為を、この場で行います」

 凍騎の言葉を聞いた触手王は、少しの沈黙の後に笑いを含みながら言った。
《なんという奴だ……そこまで気づいていながら、淡々としたその冷静な度量……ますます気に入った! 凍騎、おまえのような逸材は触手軍にもいない、触手に忠誠を誓うという言葉に偽りはないか?》
「ありません、触手軍に協力いたします」

《『地球』を触侵するための下見で。疑似生命体を乗せた円盤を地球に送り……偶然に転落したおまえの車両を見つけ。おまえたち二人を、地球触侵のための研究をする繁殖実験用として蘇生させてみたが……優秀な部下の拾い物をしたようだ。今しばらく『地球』への触侵は先送りにしよう……凍騎、おまえの手腕を見てみたくなった……これより触手軍の全権をおまえに委ねる、手始めに指定する二〜三の星を『触侵』してみろ》
「光栄です、触手王さまの仰せのままに……触侵を遂行します」
 触手王は鎌首の先で床から現れた裸の女を示しながら、凍騎に言った。

《その疑似生命体の女は、地球触侵用に特別に開発した女だ……おまえに与える好きに使え》
 凍騎は疑似生命体の女に『ティティス』と、名づけた。


 夢の中で回想していた凍騎は、自分の上に乗る重みに眠りから目覚めた。
 目前に全裸で微笑む上に乗っているライナの姿があった……微笑みながら、ライナが言った。

《凍騎……やっぱり、あなたにはついていけない……あなたは頭はいいけれど、実験動物を見るような冷たい目で、他人やあたしを見るのが怖くて耐えられない……別れましょう》

 凍騎は、元恋人のライナを突き飛ばす、突き飛ばされたライナはティティスの姿に変わる。
 凍騎がティティスに向かって怒鳴る。
「その姿にはなるなと、言ったはずだ!!」
「凍騎さまが寂しそうでしたので、体でお慰みしようと思いまして」
「余計なコトをするな! なんの用だ」
「ワープが終了して太陽系内に侵入しました」
「そうか」
 自動クリーニングが終わった衣服を着た凍騎は、自分の部屋を出て触手部屋へと向かった。
 触手が蠢く部屋では凸面の有機質モニターに、全体がコバルトブルー色の惑星が映し出されていた……凍騎が言った。

「天王星か……いつ見ても美しい星だ、望遠でこの位置から見える地球を映せ」
 画面が切り替わり、北半球が下になった地球が映し出された。
 凍騎がティティスに言った。
「この天王星の座標からでも、地球の観測技術ならこちらの存在を知るコトも可能だからな。慎重に行動しないと……触手王さまが、長年、手を焼いている惑星『地球』さて、この惑星をどう攻略するか」
 腕組みをして考えていた凍騎がティティスに訊ねた。



[前の穴へ][後の穴へ]

3/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!