触侵D人類、触手と融合……新生物へと進化

 凍騎がティティスに訊ねる。
「サーコの部屋で何を見た?」
「床に一つだけ人間カプセルが置かれ、その中にサーコと同じ年齢の裸の男性が両目を閉じて横たわっていました……こっそり見ていると、サーコがカプセルに頬を擦り寄せて『ユズキ……好き』と、呟いている声が聞こえました。あの行為は凍騎さまが話していた男女間の特別な感情ですか?」
「そうか、サーコが男を部屋に……」
 しばらく考えていた凍騎が、決断した笑みを浮かべて言った。
「触侵の方向が決まった……ティティス、近未来惑星に触侵を開始するぞ」と……。

 小一時間後……施設内の循環式人工羊水の水量が、急激に低下したコトを告げる警報が鳴り響いた。
 羊水配給室に急ぐサーコ……水量が長時間低下すると、胎児や胎芽が入っているケースの生命維持装置に支障が生じる……未熟で弱い胎芽の全滅もありえる。
(いったい何が起こった!?)
 配給室に入ったサーコは愕然とする。配給パイプのコックに手を掛けて微笑んでいる、全裸の復元女の姿が目に飛び込んできた。
 人工羊水の配給は全て自動で制御されているが、非常事態を想定して手動でも開閉可能になっていた……その配給コックが女の手で閉じられていた。

「そこで何をしている!!!」
 微笑む復元女の口から小声が漏れる。《サーコ……良かった、無事に生まれてきた》
「????」
 女の体が崩れ、肉と骨に分離する。肌色をした触手たちが、配給室に張り巡らされたパイプの隙間へと逃げ去る。
 目前で起こった出来事に愕然としていたサーコは、我を返り急いで羊水配給パイプのコックを開ける。

 床に散乱している人骨を眺めるサーコは、不思議そうな顔をした。
(この人骨はいったい? さっきのは『侵略生物・ロープ』?)
 この時、サーコは施設内の照明が予備電源に切り替わっていたのに気がついた……生命維持装置を主体に、電流の多くが使われていた。
「しまった!! 管理室が!!」
 主電源から予備電源に切り替わっている時間は、施設内は完全に無防備状態になる……もしも、その時間を狙われたら。

 サーコがユズキが管理室に到着した時、操作パネルの前で冷笑している凍騎と並んで立っているティティスの姿があった。
 そして、操作パネルの上では、銀色の触手と紫色の触手が蠢いていた。
 凍騎が言った。
「母親との再会は楽しめたか、銀色触手がこの施設のシステムに侵入〔サイバー攻撃〕して、システムの乗っ取りに成功した……パスワードも変更した」

 サーコは凍騎が言った「母親と再会……」の言葉の意味を理解しないまま、小刻みに震えながら凍騎に質問する。
「いったい何をした……何をするつもりだ、おまえは『ロープ』なのか? 人間なのか?」
「オレは人間だ……おまえが、この惑星での呼び名『ロープ』と呼んでいる触手寄りの人間だ……この星で行われるのは『触侵』だ」
「『触侵』?」
「ティティス、もう一度、触手卵を産んでサーコに見せろ」
 ティティスの体がゼリーのように半透明に変わり、体内に内臓のように詰まった触手が見えた。
 腸のように蛇行して蠢いている、触手管の中には卵群が詰まっているのが確認できた。
「うッ……生まれます、凍騎さま」
 ティティスが片手を自分の股間に持っていくと、体内の触手が蠕動して女性の膣口の位置から、真珠色の卵を一つ排出した。
 ティティスが産み落とした卵を紫触手が受け取り、円筒形のケースに入れて。別の部屋へと持って行く。

 凍騎が呆然と立ち尽くしているサーコに言った。
「人間の優性な遺伝子だけを選別して、人間をサイクル製造していたのが、おまえたちの失敗だな……触手卵の遺伝子を最も優性な生物遺伝子としてデータを書き換え、人間に組み込むようにシステムを改造した……そして触手と人間を融合させた、見ろ! 新たな人類の姿を」

 壁一面にある、分割画面のモニターにカプセルに入っている裸の男女が映る。だが、その姿は普段サーコが見慣れている仲間の姿ではなかった……体から触手が突出してカプセルの中で触手が蠢く、不気味な新生物へと変貌していた。



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あきゅろす。
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