触侵C人間製造サイクルシステム

 アドミニストレータ―〔管理者〕のサーコの話しだと、近未来惑星の環境が悪化したので人類の種を残すための決断として、惑星自体の浄化作用と治癒力で人類の活動に支障が出ない環境に惑星が回復するまで。
 人類は地下に潜り、種の眠りに入ったのだと説明した。

「惑星の数世紀前の記録は、失われているので詳しいコトは伝わっていないが……惑星全体で戦争が勃発して、環境が汚染されたらしい」
「残っている記録で宇宙からの侵略者のデータは残っていないか?」
「一度だけ、我々が『ロープ』と呼んでいる生物が大戦中に数匹、空から飛来したと記録が残っている……多少の被害が出たみたいだが、ロープは殲滅させた……見るもおぞましい、汚らわしい生き物だったらしい」
 ティティスがサーコの言葉を聞いて、黒触手を体内から出してサーコの背後から襲い掛かろうとするのを凍騎が止める。

 サーコは各階の部屋に凍騎たちを案内して、人間の製造過程を説明した。
 最初に案内された部屋には、胎芽の部屋と同じ六角系の蜂の巣のようなケースが天井近くまで壁に埋め込まれ。淡い照明で照らされる液体の中に、かなりの大きさまで成長した胎児が浮かんでいた。 

 サーコが凍騎に説明する。
「この部屋は臨月段階まで成長した人間の部屋だ、自然分娩なら出産間近だな……だが、我々は効率良く人類の種を残すために、さらなる成長段階まで人工胎盤とヘソの緒を繋げたまま人間を成長させる……次の段階の部屋に移動するぞ」
 次々に案内された部屋では成長してヘソの緒が繋がった胎児を、六角形のケースから透明なカプセルに胎盤ごと移す作業が全自動のマニュピレーターでおこなわれていた。
「これが、第一の誕生だ……あのカプセルが各自一生の自己カプセルとなる……次の部屋に移るぞ」

 部屋を移動するたびに、カプセルに入っている人間は成長していた……まるでキノコを栽培して部屋を見ているようだった。

 十七歳から十八歳くらいまで成長した男女の部屋に来た時、サーコは足を止める。
「この年齢まで成長させたらヘソの緒を切って、カプセルの中で人工胎盤と離脱させる……第二の誕生だ」
 カプセルの中に浮かぶ男女のヘソの緒が事務的に切断されると、切断面から流れ広がった赤い液体が人工羊水の中に拡散して。第二の誕生を迎えた男女は「あふッ」と声を発してカプセルの中で身悶えた。

 汚れた羊水は、すぐに自動浄化されて新鮮な羊水に入れ換わった。
 サーコが言った。
「わたしの場合は、同じように誕生して。すぐに目覚めさせられた……前期のアドミニストレータ―が、管理の役目を放棄して外に出て行ってしまったのでな」
「それはいつの話だ」
「数年前だと記録には残っている……フロンティア精神が旺盛過ぎる女性で、中央エリアを目指して外に出たらしい。今は消息不明のバカな女だ……先の部屋へ向かうぞ」
 部屋を越えるたびにカプセル内の男女は年齢を重ね、中年から老年へと向かう。
 歩きながら凍騎がサーコに訊ねる。
「眠らされて成長を続けている人間は、目覚めるコトが無く一生を終えるコトもあるのか?」
「あぁ、惑星の環境が整わなければな……カプセルの中で寿命を迎える……次に案内するのが最後の部屋だ」

 最終の部屋では空のカプセルが、全自動のマニュピュレーターアームで洗浄、消毒、乾燥、紫外線殺菌されていた。
「この部屋で、次に使用する人間のための準備をする……カプセルは再利用されて別の人間が入って人生を送る……以上が、この施設のサイクルだ」
 サーコの説明を聞き終わった凍騎は。
(この人間製造のシステムと技術は、触侵にも応用できるな)
 と、考えていた。

 凍騎たちは施設内の空いている部屋を「自由に使ってくれ」と、サーコからあてがわれた。
 サーコは凍騎たちを、完全に別エリアから来た人間だと信じたようだ。
 机前の椅子に座った凍騎は一人、作戦を練り続けていた。

(さてと、どう『触侵』を進行させれば良いものか)
 凍騎が考えていると、ティティスが復元女を連れて入室してきた。
 ティティスが言った。
「施設内を探っていて、サーコのいた部屋で、おもしろいモノを見ました」



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