触侵@『近未来惑星』の自動防衛システム

 一年前……女性の子宮や卵巣や膣の形をした、触手侵略軍の女性性器型宇宙船。
 その周囲に群れる精子型の宇宙船。
 女性性器型宇宙船が鎖で宇宙空間を引いてきた、触手が蠢く触手小惑星。

 凍騎は、宇宙船の丸窓から次の触侵惑星を見た。
「あれが、次の触侵目標惑星『近未来惑星』か」
『近未来惑星』……コバルトブルー色の地表に、スカーレット色の赤い筋が運河のように走る星だった。

 ティティスが言った。
「文明レベルが高い星です……過去に触侵を何度も退けて、触手の侵入を一度しか許していない……しかも侵入した数体の触手からの連絡は途絶えました……難攻の惑星です」
「そんな惑星を相手に触手王さまは、オレに触侵軍の指揮を命じたのか……おもしろい。ティティス、あの惑星の詳しいデータを……」
 凍騎がそう言った次の瞬間、地表と惑星の人工衛星からビーム砲の閃光が触手軍に向かって発射され、一機の精子型宇宙船に命中して爆破させられた。

 指示を出す凍騎。
「後退だ! 全軍射程圏外に退避!」
 近未来惑星から離れる触手軍に、次々とビームが発射されて最終的に五機の精子型宇宙船が大破や中破や迎撃された。
 射程外の安全圏に退避した、凍騎が額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
「ティティス、なんだ今のビームは?」
「おそらく、近未来惑星の自動防衛システムが作動したのでしょう……触手軍の記録では過去の触侵で、一度触手は全滅しています」
「そんな強固な防衛システムを、あの惑星は保有しているのか」
「でも今回は前回の失敗した触侵とは、状況が異なる点が二つあります」

 触手壁が動いて現れたスクリーンに、近未来惑星と、衛星軌道上に浮かぶ『自動防衛システム人工衛星』の位置が示された。
「防衛衛星の数が以前の触侵時より半数近く減っています、そのため防衛ラインに空白が生じています……おそらく、小惑星群の衝突か人工衛星の事故で減ったものかと」
「その空いたスペースからの侵入なら、地表の防衛システムも人工衛星からの侵入者警報信号が発信されないから、惑星への突入も可能ということか……二つ目の異なった状況は?」

「今回の触侵に、凍騎さまがいるということ……触手では考えつかない作戦を、指揮してくださる名指揮官であり、参謀役の凍騎さまが」

「防衛ラインが手薄な箇所から惑星に侵入して、地表に到達できる確率は?」
「約40%……地表の防衛システムが、個別に作動するシステムでしたら迎撃されます」
「半分以下の確率か……おもしろい、ティティス。近未来惑星の生命反応をスクリーンに表示しろ」
 スクリーンの近未来惑星上に赤い光点と緑の光点が現れた。
「ポツポツとある光点は小動物の生命反応……緑色の光点は植物の生命反応です、海洋が少なく全体的に山脈の荒野か砂漠の惑星です、極地は氷で覆われています」
「人間の反応は?」
「あの白い光点群です」
 近代惑星の中で、光点が密集している箇所が一ヶ所だけあった。
「集まっているな……しかし、動きがまったく無い? 文明が高い星にしては人間が少ないが? なぜだ?」
「それは地表に降りて調査してみないことには……どんな作戦で触侵を開始しますか?」
「そうだな」

 少し考えていた凍騎が口を開く。
「少数精鋭の小隊構成で侵入しよう……黒色触手、紫色触手、黄色触手を数体。白触手と赤触手も念のために数体……目立った触侵ばかりが触侵じゃないからな……それから、触手女王の御体から分離した銀色触手を小隊に加えろ。機械相手なら必要になる」
「わかりました」
 凍騎と触手数体を体内に宿したティティスは、卵子型の小型ポット船で『近未来惑星』に向かった。

 大気圏を抜けて、防衛ラインの希薄なスペースから侵入に成功した凍騎とティティスの触手小隊は、惑星の色と同じコバルトブルー色の砂漠に着陸した。
 砂を巻き上げて着陸した小型宇宙船から、外に出た凍騎は周囲を見渡して呟く。

「砂ばかりだな、砂の上に出ている廃墟になった建造物の一部が見えるが」
「環境変化で滅亡した文明の痕跡です」
 ティティスの腹からヌニュと銀色の触手が一匹、ティティスの体と繋がったまま出てきて探査するように砂の中に潜る。
 ティティスが言った。
「地中にパイプのような移動通路を発見……水や電力などの供給パイプや通信ケーブルも、通路に並走設置されています」
「その、地下移動通路はどこへ繋がっているんだ?」
「各エリアにある地下施設のようです」
「各エリアには人間がいるのか?」
「いいえ……人間が生存しているのは、宇宙船で確認したエリアの施設だけです……他エリア施設の人間は……数世紀前に死滅しています」



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