サイボーグ・キュウちゃん誕生秘話@

 日中、山中を裸に近い格好で逃げる女の姿があった。
「ハァハァハァハァ……ハァハァハァ」

 金髪で黒いTバックの『ぜかましパンツ』を穿いた裸の女を、銃を持った迷彩服姿の男たちが追っている。
「いたぞ!! 逃げた九号だ!! 回り込んで沢の方へ追い込め!!」

 ぜかましパンツの女は逃げる途中に、手刀で伐採した大木を持ち上げると、追っ手に向かって投げつけ男たちの進路を遮る。

 なぜ、男性が数人がかりでも持ち上がらない大木を、軽々と持ち上げて放り投げるコトができたのか? 彼女自身にもわからない。

(ハァハァハァ……ここはどこ? どうして、あたし裸なの? あたし何をされたの? アレ? なんとなく走る時の習慣でハァハァ言っているけれど、あたしそんなに呼吸していない?)

 女性が覚えているのは、手術室のような場所の手術ベットの上で、裸身で手足を金属製の手枷と足枷で固定され。
 手術着姿の数名の人物から見下ろされている場面だった。

 ぼんやりとする頭で、手術灯の眩しさに目を細めている女性に向かって、手術着姿の人物が言ったのは。
『九号』の処術は九割成功した……あとは『脳改造』で、我々に忠誠を誓う服従チップを脳内に埋め込めば、最高のセックスサイボーグの完成だ

 手術着の人物たちが、昼食と称して部屋を出ていった際、最後まで部屋に残って作業をしていた人物が意図的に手足を固定していた、手枷と足枷のロックを解除した。


 手術台の上に横たわっている、ぜかましパンツを穿かされた女性に向かって、手枷と足枷のロックを外した人物は小声で。

「今なら警備も手薄だ、ここから逃げろ。機械化男爵の島へ行けば助けてくれる、早く行け!」
 と、言い残して部屋のドアを開けたまま、消灯して去って行った。

 そして、逃げ出した女性は今、こうして男たちに追われている。
 女性には自分に関する記憶が、ほとんど失われていた。唯一覚えているのは、制服姿の学生で裁縫部の部長をやっていたコト……そして、自分を示すモノは首に巻かれているドッグタグに【No.9】と刻まれているコトだけだった。

 波の音が聞こえてくる方角を目指し、追っ手を振りきって、高い崖から砂浜に飛び降りる。九号の女性。

 着地してから自分が飛び降りた断崖を見上げる。生身の人間が飛び降りて着地できる高さではなかった……追ってきた男たちが崖の上から迂回するのが見えた。
(あたしの体、どうなっちゃったの?)
 飛び降りる際に躊躇〔ちゅうちょ〕は無かった、なぜか飛び降りて成功する確信があった。
 九号の女性は海原の方に目を向けて呟く。
「機械化男爵って、どこにいるのよ?」

 次の瞬間、女性の目に風景と重なるように衛星ナビゲーションの画像が映る。

「わっ! 何これ?」
 ナビゲーションには『機械化男爵の島』と、目的地と距離が示されている。

 迷っている余裕は無かった、崖を回り道から下りてきた男たちが浜に迫ってきていた。
(行くにしても、目の前は海で船も飛行機も無いし)

 そう女性が思った時……ナビゲーション画面の下に『加速装置準備完了……今より使用可能』の文字が出た。

 女性はなぜか、加速装置を発動させる方法を知っていた。奥歯にあるスイッチを舌先で押せばいいコトを。

 舌でスイッチを押す。
「加速装置!!」
 女性は、ものすごいスピードで砂浜を走り抜け、そのまま海上を沈まずに走り続ける。

(えっ、えっ? あたし海の上を裸で走っている? すごい!! スピードだったら誰にも負けませんよぅ)
 九号女性は、機械化男爵の島を目指した。

 小一時間後……女性は海を渡りきり『機械化男爵の島』の浜辺に上陸した。

(さてと、これからどうするか? とりあえず木々の隙間から見えている、あの城へ行ってみるか)

 歩き出そうとした九号女性の視界が、いきなりブラックアウトする。
(アッ、アレ?)

 体も動かなくなり女性はそのまま顔面から浜に裸で倒れる。真っ暗な視界の中に『電池切れです充電してください』の文字が浮かんでいるのを見ながら、九号女性は意識を失った。



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あきゅろす。
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