【実験群島の人間島はこうして誕生しました】A

 魅了する裸体の裸族人類女性がいなくなると、艦長が船員に指示した。

「墜落地点を拠点にして、島から脱出する方法を考える……とりあえず、今は休息が優先だ」

 翌朝……島をグルッと取り囲むように円筒の塀ができていた。朝日を浴びてメタリック色に輝いているその塀は、輪切りにした巨大宇宙船の船体らしかった。

 他地球の着衣人類たちが、呆然と塀を見上げていると、蝶の羽を羽ばたかせた裸族人類女性が飛んできて樹の枝にとまった。

 ニヤニヤ笑っている裸族人類女性に向かって艦長が訊ねる。

「おまえがやったのか……どういうつもりだ、我々を閉じ込めて何が目的だ!」

「退屈だったから暇つぶし……さあ。あの塀をどう攻略する。最初に言っておくけれど穴を掘って下から脱出なんてムリだからね……岩盤の深い場所まで、しっかり埋め込んであるから」

「ふざけるな! オレたちはこの島から脱出しようと必死なんだぞ、邪魔するな」

 裸族人類女性は、意味ありげな薄笑いを浮かべながら羽を羽ばたかせて、塀から外に飛んでいった。

 副官の女性がタメ息を漏らして地面に座り込む。
「ムリですよぅ……あんな高い塀を越えてどうやって外に出るって言うんですか」

「諦めるな!! 岩山を登るみたいにすれば出られる、塀に穴を開ければ出られる!」

 しかし、金属製の塀は傷つけることも、穴を開けるコトもできなかった。ロッククライミングみたいに登ろうと思っても、手足を引っかけられるような場所は一切無かった。

 艦長が言った。
「工事現場みたいな足場を組んで登れば、脱出できる!」

 足場は翌日になると、蝶の羽の裸族人類が飛んできて壊していった。

 何度、足場を組んでも壊され。追い払うために使用していた弾薬も底を尽くと。着衣人類たちは飛んできた裸族人類に向かって石を投げたり、カカシを作ってみたり、キラキラ光るモノを吊るしてみたり、目玉模様を吊るして威嚇してみたり、水の入ったペットボトルを置いたりして撃退を試みたがすべてムダだった。

「熱気球だ! 熱気球を作ってここから脱出を!」
「ムリですよ艦長、気球の材料なんてどこにあるんですか……第一、気球であの塀を越えて脱出できるという保証は、どこにもありませんよ……我々はこの島に、閉じ込められたんです」

 その時、島を探索していた船員たちがもどってきた、艦長は脱出経路の有無を聞いた。

「どうだった? 脱出できそうな場所は見つかったか」

「ダメですどこにも、抜けられそうな箇所はありません……島に流れている小川の流れも塀の下に潜り込んで消えています……ただ、一つだけ気になったコトが」

「なんだ? 言ってみろ」

「巨石で入り口を塞がれた洞窟を見つけたのですが、洞窟の中から子供の声が聞こえてきました」

「それは動物の鳴き声とかの聞き間違いだろう……こんな島に子供がいるはずがないだろう」

 脱出方法を考えていると、蝶の羽を羽ばたかせて裸族人類の女性が飛んできた。

「な〜んだ、もう脱出は諦めたの……つまらないなぁ、そうだ! 跳躍力を鍛えて塀を飛び越えてみたら」

「できるか!! バッタじゃあるまいし!!」

 上がり目の裸族人類女性は、小バカにしたように鼻で笑う。

「そうよね……じゃあ、あたしみたいな裸族人類に進化でもしてみれば。羽とか翼が背中から生えて空を飛んで脱出できるかも知れないわよ……いいこと教えてあげる、この島の湧き水近くに『人間が食べると理性を失う果物』があるそうよ……それを食べれば理性を捨てて裸になるから、あるいは裸族人類に進化するかもね……それじゃあ、頑張って脱出してね」

 そう言い残して裸族人類は、またどこかへ飛び去っていった。

 艦長の男性は悔しさに拳を握りしめて、船員に言った。

「いいか! 絶対に『理性を失う果実』は食べるんじゃないぞ! 我々は人間だ! ケダモノじゃない!」



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あきゅろす。
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