ゾンビの町と『マンドラゴラ』の収穫祭A

 ゾンビ娘が続けて話す。
「邪魔魔女レミファは、島から逃げるコトもできず……ゾンビに帽子を残して、衣服を剥ぎ取られスッポンポンにされて囲まれてしまい……死を覚悟したレミファは、一つだけ使えた『肉体爆裂魔法』の自爆魔法を自分にかけて……粉々に吹っ飛んでしまいました」

「邪魔魔女レミファ どっ〜かん!……ですか」

「えぇ、あたしも含めてゾンビたちは、飛び散ったレミファの血肉を貪ったんです……その途端、あたしたちは開眼して失っていた人間の意識が甦りました……それから、生きた人間を襲うのをやめて。人間らしく……もとい、ゾンビらしく生きるコトを誓ったんです」

「感動的な話しですね……ところで、この島で黄金色に輝くキ○タマの噂を聞いたコトはありませんか?」

「さあ、聞いたコトはないですね……この島には無いと思いますよ」
「そうですか」

 軍医タコとゾンビ娘が会話をしていると、マンドラゴラが山盛りに積まれた、ゾンビ馬の荷馬車が広場に到着した。

 ゾンビたちは、荷馬車の上で暴れて耳障りな声を発しているマンドラゴラを次々と、巨大な桶〔おけ〕に放り込みはじめた。

 軍医タコがゾンビ娘に訊ねる。
「何がはじまるんですか?」
「収穫してきたマンドラゴラを、ゾンビ娘たちが足で踏んでエキスを抽出するんです……ワイン作りの祭りでブドウを踏むように、マンドラゴラを踏んで発酵酒を作るんです。収穫祭の最後には。公園の花壇で栽培されている『マンドラゴラ』を、みんなで引っこ抜くので……この時、タコさんは耳を塞いでいてください。マンドラゴラの断末魔を聞いた生者は、意識を失ったり場合によっては死亡しますから」

 そう言うと軍医と会話していたゾンビ娘は、自分も大桶の中に素足で入って、悲鳴をあげているマンドラゴラを踏みつけはじめた。

《ギャーッ!!》《グェェェ!!》《グハァァァァ!》

 楽しそうに笑いながら素足で踏んでいるゾンビ娘たちの足からは、ゾンビエキスも染み出して。

 マンドラゴラとゾンビの混合エキスが桶の縁から溢れ、広場の石畳の隙間を伝わり、町の側溝に流れ込んでいくのを見ていた軍医タコがシロンに訊ねた。

「あの側溝を流れていく、マンドラゴラとゾンビの余分なエキスは、どこへ流れていくんですか?」

「川に流れ込み、やがて海へと流れ込みます……それが何か?」
「いや、ちょっと気になったもので」

 盛り上がっている、マンドラゴラ祭りの中……軍医タコに向かって、怒鳴る聞き覚えがある声が聞こえてきた。

「軍医! てめぇ! よくもオレをゾンビの囮餌にして、自分だけ逃げたな!!」

 声が聞こえてきた方を見ると、頭だけの隊長タコが憤怒の形相で睨みつけていた。

 軍医タコが平然とした顔で言った。
「無事でしたか隊長……よく、全部喰われませんでしたね」

「あたりまえだ、喰われて消えてたまるか! 切り離した触手が食べられている隙に逃げたんだ」

 隊長タコの頭には一部噛み千切られた穴や、歯形が残っている。

 軍医タコが言った。
「まるで、今の隊長の姿は、キングス○イムみたいですね」

 ボールのように弾みながら、隊長タコが怒鳴る。
「うるせぇ! だいたい、おまえは日頃から隊長を尊敬するという気持ちが欠けていて……おい、なに触手で自分の耳の穴ふさいでいるんだ? オレの話しを聞け!!!」

 桶の中でマンドラゴラを踏みつけている、ゾンビ娘が軍医タコに向かって言った。

「タコさ──ん、そろそろ祭りクライマックスの『マンドラゴラの引っこ抜き大会』がはじまりますよ、準備してくださ……」

 ゾンビ娘の言葉が終わる前に、一斉にマンドラゴラが引き抜かれた。

《ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!》

 マンドラゴラの大絶叫が広場に響き渡る。耳の穴から触手を抜いて軍医タコが言った。

「素晴らしい断末魔でした……おや? 隊長どうしました?」

 見ると隊長タコは、白目を剥いて気絶していた。



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