実験群島A

 眼下の海上を白波を立てて移動している群島が見えてくると、リヤカーを引いていた源サンが聞いてきた。

 六島の島のうち五島が橋で繋がっていて、行き来できるようになっている。

《どの島に着陸するんだ、指示した島に降りるぜ》

「それじゃあ、右端の島に」

 夜美がそう指示した次の瞬間、群島の近海から波飛沫を上げて、身長五十メートルの巨大な裸の女が出現した。

「アンギャアァァァァァ!!」

 海水を滴らせて、腰から上を海面に出して咆哮するツインテール髪をした裸の女性の背中には、サンゴのような背ビレと尾骨から伸びる黒いハ虫類の尻尾があった。

「美久さん? あっ、でもなんか違う……美久さんの髪はネギ色だけど、あの巨大裸女は黒髪だ……夜美さん、あの裸の女の人は?」

「ある国が極秘に別の海域で行った、特殊爆弾実験の影響で巨大化した島民よ……実験群島の近海に住み着いているの……大丈夫、大丈夫、海中で魚食べている大人しい奴だから」

 夜美がそう言って微笑んだ次の瞬間、巨大な裸女はリヤカーに向かって口から熱線を吐いた。

 慌てて熱線を回避する源サン。
《なんか吐いたぞ!? アレのどこが大人しいんでぇ!! べらんめぇ》

 急旋回で回避した傾きで、響子がリヤカーから転げ落ちて、真下にある島へと落下していくのが見えた。

 尻目が落ちていく、響子に向かって叫ぶ。
「翼を出して飛んで! 響子!」

 落ちながら首を横に振って、両手でバッテンを作る響子。
「裸族人類じゃないから、ムリィィィィィィ!!!」

 響子はそのまま、島の森へと落ちていった……慌てる尻目。

「大変、響子を助けないと! 夜美さん、響子が落ちた島はどんな実験を行っている島なんですか?」

「ん──っ、知らない……あたしが知っている島は、一つか二つの島だけだから……他の島は行ったコトないし、あの島のコトは詳しく知らない」
「そんな無責任な!? 響子が落ちた島は大丈夫なんですか? 危険な猛獣がいるとか」
「大丈夫なんじゃない……ほら、のどかな島じゃない」

 夜美が指差した響子が落ちた島の草原には、野生化した乳牛たちが牧草を食べていた。

 源サンが引くリヤカーを見た牛たちが後ろ足で立ち上がって、夜美と尻目の方に向かって前足を振っているのが見えた。

「あれだけ平和な島なら、大丈夫、大丈夫」
「いや、牛が立ち上がって前足を振っているんですよ……明らかに異常な島でしょうが」

「大丈夫だって……あの島には近代的な建物の町があって、群島の中で一番発展しているんだから……大丈夫、教授は『群島の中にはフェンスや鉄条網で閉鎖された危険な島もあるから、その島には絶対に近づかないように』って言っていたけれど……あの島は違うから……たぶん……あたしが指示した島で、とりあえずキ○タマ探そう

 尻目は夜美が言う「大丈夫」は、心底あてにならないと思った。


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あきゅろす。
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