[携帯モード] [URL送信]

燃桜
四話
まだお市が女童だったころ、髪揃えを済ませる直前に女中の一人から織田家姫君の心得を話された。既に決められた自分の運命。いつか顔も知らない夫と結ばれ、危うい命を灯す人生。
まだ幼かったお市は怖くてたまらなかった。いつまでも兄信長と共に野に分け入り、自然と戯れ遊んでいたいと涙ながら願っていた。



髪揃えを済ませてからも、しばらくの間お市は毎日が怖くてたまらなかった。政略婚姻で嫁いだ先の夫に一方的に慰み者にされた他家の姫の話を聞いた時は、兄さえも恐ろしく見えたほどだ。



「……嫌か?」


信長はお市の顔を眺めたまま口を開いた。お市は平静を装った顔を上げ、そしてぎこちなく微笑む。


「織田の姫君として生まれた定に御座います。お断りするなど、生まれた価値の放棄……婚姻の話、喜んで承ります。」


信長はこれがお市の真の言葉ではない事をすぐに見抜いた。平静を装う妹の健気さ。信長は表情こそ変えなかったが、内心は「すまない」の言葉しかなかった。

[*前へ][次へ#]

4/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!