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燃桜 一話 先にも書いたようにお市は織田信長の実妹である。応仁の乱から数年、天下は動乱の時代を迎えていた。室町幕府将軍足利家の威光は地に落ち、下克上、弱肉強食の時代。織田家は現在の名古屋にあたる尾張一国の大名に過ぎなかった。 信長の父信秀は猛勇ながらも知略も有り、戦国小大名ながらも織田の名を周辺に轟かせていた。息子信長に斎藤道三の娘、帰蝶（濃姫）を迎え美濃斎藤家と和解したのも彼の提案によるものである。その後は東より迫る今川家の攻勢に晒されながらも、尾張の統治を維持出来たのは信秀の非凡な能力があってこその他ならない。柴田勝家も織田家にはこの信秀の代から仕えていた。当時から柴田勝家は猛勇果敢な将として「かかれ柴田」の異名で知られていた。 しかしその信秀が亡くなると織田家は跡継ぎに混乱する事になる。当時信長は政治などには無関心で日々領地に分け入り、勝手気ままに生活していた。父信秀の葬儀の際は粗野な出で立ちで現れ遺灰を撒き散らすなどの行いをし、織田家家臣と領民からは「うつけ」と呼ばれていたという。当時の家臣たちは跡継ぎは信長ではなく、次男の信行が相応しいと考えていた。 そんな家臣の考えを知ってか知らずか、信秀の葬儀後も信長の行いは変わらなかった。相変わらず野に分け入っては好きに遊ぶ毎日。妹の市が共についていたかはわからないが、とにかく傾な行為は変わる事がなく、家臣の一人が織田家の行く末を嘆き自害したほどでもある。 その後信長は家督を次ぐ事になるが、織田家は分裂し、まずは尾張の再統一に臨む事になる。柴田勝家も最初は信長に反感を抱き抗っていた。 ［次へ#］ [戻る]  |