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09
 機嫌が直ったところで漸く食事タイムの開始だ。余程お腹を空かせていたのだろう。何時も通り食べるスピードは速い。
「ほら、口に付いてるぞ」
「?」
 悪銭苦闘しながら必死にスプーンを使って食べるルーイの口には、食べるときに皿に当たって飛んだ野菜の欠片が付いていた。
「此処」
「………!」
「いっ…」
 取ってやった欠片をじっと見つめた後、ルーイが口を大きく開けてグレイヴの指ごとそれにかぶりつく。
「ばっ! ルーイ!!」
「っっ!?」
 慌てて口を開けて身を引いたルーイが、危険を察知したのか小さくなり顔を伏せた。
「……噛みつく奴があるか…痛ててて…」
 噛みつかれた指に滲む赤。指を見ると小さな傷が出来ていた。
「……ん?」
 人間に噛みつかれたにしてはおかしい傷跡。まるで獣の牙によって付けらた様な噛み傷にグレイヴは眉を寄せる。
「何で?」
「…………」
 何時の間にかルーイが傍に立ちグレイヴの事を覗き込んでいた。
「ん? どうした」
「…………」
 すっと伸びるルーイの腕。それがグレイヴの手を掴み持ち上げる。
「ルーイ?」
 舌を出し舐められたのは傷跡。傷を癒すように丁寧に何度も血が滲む部分を舐められる。
「ごめんなさいって言ってるのか?」
 しょぼくれて泣きそうな顔のルーイと目が合う。傷を付けたことを悪いと思ってくれているらしい。色々と妙な事をされるが、こうやって自分の事を気に掛けてくれる所は中々に可愛いとは思う。
「大丈夫だ。怒ってなんかないさ」
 だからなのかもしれない。ついつい甘やかしてしまうのは。
「ほら。俺は大丈夫だから、残ってるもの、全部食っちまえよ」
「…………」
 戻って食事を続けろと言うが、ルーイは今だ納得出来ない様子でグレイヴの事をじっと見ている。
「ルーイー…早く食べないと…」
 仕方がない。溜息を吐いたグレイヴは一度顔を伏せ口角を吊り上げると、意地悪な笑みを浮かべてルーイの皿の上に乗った肉を一切れ掴み取りぱくりと食べてやった。
「俺が全部喰っちまうぞ!」
「っっ!?」
 自分の皿から食べ物を取られた事に驚いたルーイは急いで皿の中身を確認する。さっきまであった物が今は無い。慌てて席に戻り食事を再開させるが、無くなった食べ物は戻って来ない。それに悔しさを感じたのだろうか。段々とルーイの目が涙で潤み始める。
「ルーイがさっさと食べないから無くなっちまったんだぞー」
「……うー…」
 皿の中身は片付けられ何も無くなってしまった。それを悔しがるようにルーイはスプーンを音を立てて噛みながらグレイヴを睨む。
「ルーイが悪い!」
「っ!」
 上目遣いで睨まれても余り恐くはない。軽くデコピンをしてやれば、ルーイは驚いて皿の上にスプーンを落とし、弾かれたおでこを何度もさすった。
「腹は膨れたな? それじゃあ皿を片付けるぞ」
 席を立って散らかった食べ物を拾いながら皿を片付ける。最初の頃に比べれば大分綺麗に食べられるようになった。中々の進歩だろう。
「良い子だ」
 上達したことに対しては素直に褒める。そうするとルーイは嬉しそうに笑う。自分と同じ顔が無邪気に笑う事に違和感を感じはするが、反応が素直なところは結構好きだったりもしてグレイヴもつられて柔らかな笑みを浮かべた。
 ルーイが来てから家の中は随分と温かくなった。室温的にというよりも、雰囲気的にという意味で。
「……夕飯はどうするかなぁ…」
 自分一人だとデリバリーやインスタントで賄っていたが、最近は結構自炊もするようになった。有る意味良い傾向と言えるだろう。
「…とは言え、コイツさっき食っちまったんだよな…」
 グレイヴの帰ってくる時間がルーイの昼食タイムになってしまっているため、夕飯の時間は大分ずれ込む。
「…頼むから、一人で昼飯くらいは食ってくれよ…じゃねぇと、俺の身が持たねぇ…」
 正直腹は減っているのだが、個別に作るのは面倒臭い。なのでルーイの小腹が空くまで必然的にグレイヴは我慢を強いられる事になる。
「…今度から、コイツが昼飯食うのと一緒に夕飯食っちまおうかなぁ…」
 しかし、それをすると今度は夜も更けた頃にお腹が空いたと騒ぎ出すから質が悪い。
「現在の課題はこれだな…」
「クシュン!!」
 ルーイの居る方からくしゃみと共に異様な音が聞こえてくる。
「ん?」
「うー…」
 一体何事かと視線を向ければ、飛び散ったミルクにまみれてルーイが情けない表情を浮かべて呻っていた。
「……お前なぁ…」
 どうやらまたやったらしい。カップを使って飲み物を飲めるようにはなったが、ルーイはよくそのカップを使って遊ぶことがある。中にミルクを残したまま、机の上に顎を付けてカップの縁を囓り徐々に傾けていくのだ。そうして少しずつ流れてきたそれを舌で舐め取る。普通の人がするように手でカップをもって口に運び傾けるのではなく、カップを手で固定して口を動かし液体を舐めると言うことだ。そして、そんなときに鼻にむず痒さを感じると、当然くしゃみが出てこの様な悲惨な結果に終わる。
「何時になったらこの癖が直るんだか」
 やれやれと首を振りながらタオルを取ってくると、机の上で横になったカップを立てて零れてしまったミルクを拭き取った。汚れたルーイはこの後強制的に風呂に突っ込む。嫌がられても問答無用。
「ルーイー」
「?」
「判ってるよな?」
「!?」
 身の危険を感じたルーイが素早く立ち上がり一目散に逃げ出そうとする。直ぐさま逃がさないとグレイヴは手を伸ばし後ろからルーイを捕まえ抱きかかえた。
「うっ…重い…」
 だが此処で拘束を解けば、ミルク臭いまま色んな所へ逃げ込んでしまう。そうなると掃除が非常に面倒臭い。
「ほら! 大人しくしろって!」
 暴れるルーイを引き摺るようにしてバスルームに強制連行すると、扉を開けそのまま彼の身体を押し込んだ。
「全く…」
 脱衣場で服を脱がせるとそのまま逃走を謀るのでそれも叶わず。毎度のパターンながら溜息が出てくる。
「ガルルルル…」
「はいはい。言い訳は聞かねぇぞ」
 シャワーノズルを掴むとルーイの方へ向け蛇口を捻った。勢いよく吹き出す水でルーイが跳び上がり暴れまくる。
「お前が悪いんだって。大人しくしろ」
 一度シャワーの向きをルーイから放すとお湯に変わるまで待つ。その間濡れルーイはしょぼくれて小さくなり非難するようにグレイヴを睨んだ。
「お前さんがもう少し上手くミルクを飲んでくれりゃこんな事にはなんないでしょーが」
 漸く温かくなってきたシャワーを再びルーイに向けると、またもやルーイが火が付いたように暴れ出す。
「おいおい。大げさだろう? その反応は」
 シャワーヘッドをフックに戻し服を脱がせるべくルーイの腕を掴み引き寄せる。慣れた手つきで衣服を脱がしてバスタブに押し込めてから、グレイヴも自分が着ている衣服を脱いで脱衣場へと放り投げた。その一瞬の隙を狙いルーイがバスルームから逃走を謀ろうとするが、グレイヴの方が一枚上手。直ぐさま扉を閉め鍵を掛けると、ルーイの腕を掴み再びバスタブへと押し戻す。
「うー」
「まだ身体洗い終わってないだろう? だーめ」


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