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04
「この四角がどうかしたのか?」
「それは、緊急用の武器庫になっている」
「武器……庫…だと?」
 ヴァルとブラッドはほぼ同時にその言葉に反応を示した。
「ああ、いや。正確には武器庫だった…という方が正しいのだが」
 ハイエナは慌てて自分の言った言葉を訂正し、取り出したハンカチで汗を拭いながら言葉を換えて説明を続けた。
「今は幾つかのそれに緊急用の医療キッドと備蓄缶が入っているだけだ。武器の類は一切入っていない。
「成る程。そう言う事か」
 そもそも、刑務所と言う施設内にこの様な武器庫が存在すること自体が可笑しい。もし本当にこれが武器庫として使用されていたのであれば、刑務者に「内乱を起こしてくれ」と言って居るようなものである。
「……いや……待てよ……」
 何かが引っかかる。その違和感が一体何なのかを、ヴァルは図面を見ながら暫し考え込む。
「どうしたんだよ? ヴァル」
「……そうか。だとしたら、有る意味効率は良いと言う事だな」
 武器庫と呼ばれた小さな四角は、有る一定間隔で配置されている。規則性があり例外が無い。そこで思いついたのは一つの仮説だった。
「この施設は巨大なコロセウムだ。その為に作られたんだろう?」
 図面から顔を上げるとヴァルはハイエナを威嚇するように睨み付けた。
「…………」
 反論はない。その仮説が正しいと物語っているのはハイエナの態度と目を見れば明らかである。
「どういう事だよ?」
「つまりは、こう言うことさ」
 ブラッドに図面を渡し見るように促しながらヴァルは思い付いた仮説を説明し始める。
「あの時エレナはこう言った。『刑務所だった』と。さて、問題だブラッド」
「何だよ? 学校の先生みたいに偉そうにしやがって」
「まぁまぁ、大人しく聞けって。…なぁ、ブラッド。刑務所に収容される主な人間の種類は何だ?」
 考えなくとも判る質問をされブラッドは不機嫌そうにヴァルを睨み付ける。
「そりゃ、犯罪者だろ? 当たり前ぇじゃん」
「その通り」
 組んでいた腕から右手を前に出すと、ヴァルは人差し指を立てて手を上下に下ろす。
「刑務所と名が付くくらいだ。この建物に収用される主な人間の種類は裁判にて有罪判決を貰い、刑期を刑務所の中で過ごす受刑者…つまり、犯罪を犯した人間と言う事になる。ブラッド、良くできたな」
「餓鬼扱いすんじゃねぇよ」
 悪い悪い。そう言ってヴァルは両手を上げて降参のポーズを取った。
「話を元に戻すぞ。ところでお前、此処に振り分けられる犯罪者の犯歴のクラスは知っているか?」
「あ?」
「聞いたこと有るだろう? 入ったら二度と出られないエデンの話」
 ヴァルに言われてブラッドは記憶を辿る。
「A級からS級レベルの犯罪者だっけか? 主に殺人罪で起訴された救いようもないサイコ野郎が殆どってゴシップには載ってたな」
「ゴシップってお前なぁ…まぁいいや。今お前が言った通り、此処の収容所は主に殺人罪の凶悪犯を収容する施設だった訳だな。しかも終身刑及び刑期が百年以上の時間を設定されている人間達の。さて、問題だ」
「またかよ!」
「この施設にいるのは所謂『社会の屑』って奴だ。そう言う奴等は死刑を執行しない限りこの施設に延々と増え続ける。屑だから当然構成プログラムを組んでも社会復帰する気は無い。そこで、だ。施設の収容スペースの維持と、効率の良い死刑執行方法として有る方法が提案された。それは有る意味実に素晴らしい考えだと言える。娯楽性も高い。さてブラッド、それは一体何だとお前は考える?」
「それは……」
 手渡された図面に視線を落としながら考え込んで居たブラッドが何かに気付いたように顔を上げヴァルを見た。
「受刑者同士で殺し合いをさせるってことか!」
「そう言う事だ」
 施設を維持するために組まれたシステムプログラム。それは建物内で受刑者にバトルロワイヤルをさせることだとヴァルは言う。
「外から見た感じでは判らないが、図面を見て何となく理解は出来た」
「図面?」
「一定間隔に設置された武器庫もそうだが、壁の厚さが異様に厚い。そして窓が殆ど無い。一定間隔にマーキングされた物は多分カメラか何かだろうな」
 僅かな情報からそれだけの事を叩き出すヴァルの事をブラッドは感心したように見る。
「そして何よりもおかしいのは、職員用の部屋が建物の中にない事だ」
「あ?」
「ブラッド。今、俺達は何処にいる?」
「そりゃ…署長って呼ばれてる奴の部屋だろう?」
 ヴァルの顔から視線を離したブラッドが、趣味の悪いレイアウトが最悪な部屋の中へと視線を巡らせた。ヴァルはブラッドの行動を黙って見守る。
「どう見たってその部屋だぜ? それが何か?」
「俺達は目の前に有る建物に案内される前に真っ直ぐにここに来た。この建物は刑務所として使用されているであろう巨大施設の外側に建設された付随している別館だ」
「…………あ」
「それからざっと図面を見たところによると、施設内を監視する監視員の待機部屋も用意されていない。建物内を管理するシステムは全て外部からコントロール出来る様に設計されても居るな。つまり……」
 其処でヴァルは一旦言葉を切り、ハイエナの方へと向き直ると鋭く彼を睨み付けて低く呟く。
「この施設には一度入ると出られない絡繰りが施されている。受刑者がこのハコの中に入ると、脱獄が成功しない限り誰も助けに来てくれないんだろう? 外側の人間がこの中に入るなんてただの自殺行為だ。確かにモニタリングで監視されてはいるが、それはあくまで賭け事の娯楽の為だけの事。中の事をタッチする人間は外に居る人間の中には一人も居ない。パンドラを解放する馬鹿は普通に考えてまず居ないだろうからな」
「Jesus…」
「なぁ、署長さん」
 ヴァルが一歩、ハイエナへと歩み寄った。
「この仕事、余りにもリスクが大きすぎる。此方の命の保証が出来ねぇ以上、この事を本部に連絡してキャンセルして貰うって事になるが異論はねぇな?」
「…………」
 ハイエナは何も答えない。部屋全体に緊張が走った。
「……報酬額を倍出そう」
 先に沈黙を破ったのはハイエナの方だ。手に持ったハンカチで汗を拭いながら必死に食い下がってくる。
「いいや。金の問題じゃねぇよ。そういう単純な話じゃねぇんだ、今回の事は」
 だがヴァルは首を横に振ってその提案を却下した。
「しかし、君たちはハンターだろう? 私はきちんと手順を踏んで協会に依頼を申請した。君たちが派遣されてきた以上、仕事をこなして貰わないと困るのだよ」
 ハイエナは全く引く気が無い。それはヴァルとて同じ事。
「いいか、良く聞け。俺達は確かに協会に登録しているハンターだ。だがな、ハンターだからと言って、闇雲にやばいことに足を突っ込んで良いかと言われるとそうじゃねぇんだよ」
 真剣な表情で詰め寄るヴァルにハイエナは一歩後ずさる。
「俺達のハント対象はこの業界の中でも特殊な部類に属する。ハントに於けるリスクレベルは最も最高位のSS。そして、それを専門にハントできるハンターは実に数が少ない。だからこそ俺達はある事を最優先事項として条件を提示し、それを受諾できる物としか契約を結ばない。その条件がアンタには判るか?」
 ハイエナは狡賢いが脅しには弱い。そんな姑息なイメージ通り、目の前の男もヴァルの気迫に怯え縮こまりながら必死に考えを巡らせ視線を泳がせる。
「俺達の出す条件は一つ。絶対的なライフラインの確保…つまり、命の補償が出来るのか出来ないのか、だ」
 何時までも口を開こうとしないハイエナに、ヴァルはあっさり答えをうち明けた。

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